都心を低空飛行「羽田新ルート」安全対策で求められること
「3.5度着陸」パイロットのストレスに?
今回の羽田空港への新ルートでは、都心上空を低空で飛行するため、騒音の問題がクローズアップされている。航空機による騒音の原因は、ジェット・エンジンから高速で噴出される排気ガス噴出音だが、現在は多くの機体で、音の低減された高バイパス比ターボファン低騒音型に変更されている。また機体自体も大型機に代わって、燃費が良く、地方のような小規模空港でも離発着が可能な中小型機が増え、機体重量が軽くなったボーイング787型機の割合が増えた。大型機であっても、エンジン数が4発から2発のボーイング777型機やA350型機に取って代わられつつあり、空港周辺の騒音は低くなってきている。 7月30日に東京都で開催された「羽田空港の機能強化に関する都及び関係区市連絡会(第1回)」において国交省は、南風好天時の新到着コースの降下角度を3度から3.5度に引き上げることを表明。0.5度引き上げることで、新宿上空では約100メートル分、渋谷・麻布上空で約90メートル分、大井町上空で約30メートル分、ギリギリまで高い高度を保ち、騒音の減少を図るという。ただ、各ポイントでは100メートル前後の高度アップだが、直下の住民に対する騒音減少効果は得られるだろうか。 なお「3.5度着陸」は、英ロンドンのヒースロー空港、独フランクフルト空港、国内では稚内空港、広島空港などにおいて、気象条件によって行われているが、世界的には「3.0度」が主流だ。そのため、不慣れなパイロットは3.5度着陸に戸惑うだろう。 かつて、香港の啓徳空港へのアプローチは「魔の香港カーブ」といわれ、着陸機は九龍城を急カーブで迂回し、市街地スレスレに飛行していた。このパイロット泣かせの「香港カーブ」では、オーバーランして海に突っ込んだり、尻もち着陸やエンジンが滑走路と接触したりする事故が頻発した。羽田の新ルートでも、こうした事故が発生する恐れがある。 航空機の離陸後の3分間と、着陸前の8分間は「クリティカル11(イレブン)ミニッツ」と呼ばれ、トラブルや事故が多発する時間帯だ。雷や突風のほか、鳥がエンジンに吸い込まれるバードストライクなどが多発する。ヒューマン・エラーも起きやすい。 今回の3.5度への降下角度アップについて、パイロットたちは「強化型対地接近警報」(E-GPWS)が多発することを危惧する。現在の旅客機は、オートパイロット・システムで運航し、高度・方位・速度・目的地などのデータは機上のコンピュータに一旦入り、最適なルートを飛行するようコントロールされている。 着陸の模様は逐一管制メンバーらに把握されており、警報が鳴れば関係部署に直ぐに周知される。今回の飛行ルート変更によって、パイロットが過大なストレスを強いられることのないようにスムーズな運用を望みたい。