『夜明けのすべて』上白石萌音×松村北斗 生きづらさを分かち合うストーリー【今祥枝の考える映画】
BAILA創刊以来、本誌で映画コラムを執筆している今祥枝(いま・さちえ)さん。ハリウッドの大作からミニシアター系まで、劇場公開・配信を問わず、“気づき”につながる作品を月1回ご紹介します。今回は、松村北斗と上白石萌音のW主演でおくる映画『夜明けのすべて』です。 【写真】『夜明けのすべて』心を通わせる上白石萌音×松村北斗 職場で出会い、心を通わせる山添くんと藤沢さん。NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北斗と上白石萌音が、繊細かつ誠実さにあふれた演技で複雑な心情を切実に伝えて素晴らしい。
PMSに苦しむ女性が職場でイライラを爆発させてしまう
読者の皆さま、こんにちは。 最新のエンターテインメント作品をご紹介しつつ、そこから読み取れる女性に関する問題意識や社会問題に焦点を当て、ゆるりと語っていくこの連載。今回は、瀬尾まいこの同名小説を、『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱監督が映画化した『夜明けのすべて』です。 一般的に女性にとっては日常的で、かつ人生の多くの期間をつきあっていかなければならない月経。日本では程度の差こそあれ、約70~80%の女性が月経前症候群(PMS)と呼ばれる精神的、身体的症状に悩まされています。 日本産科婦人科学会によれば、その中の5.4%程度は生活に困難を生じるほどの強い症状を示すといわれています。こうした月経にまつわる問題は、長きにわたって公に口にすることははばかられるタブーのように扱われていました。近年はかなり改善されたようにも感じますが、現実問題としては、まだまだ職場や学校などでは話しにくい、正確な理解を得られているとは言い難いというケースが多そうです。 瀬尾まいこの同名小説の映画化『夜明けのすべて』で、上白石萌音が演じる藤沢さんもPMSに苦しんでいます。普段はいたっておおらかな性格ですが、月に1度、精神的にも極度に不安定になり、大学卒業後に入社した会社の職場で、2カ月目にイライラを爆発させてしまいます。 映画が描くのはそれから5年後、藤沢さんが再就職した会社・栗田科学で出会う人々と心を通わせる姿です。社長の栗田さん(光石研)ほか、会社の先輩たちはみんなが若い藤沢さんを見守るようにして接してくれており、居心地のよさそうな職場です。 そんな藤沢さんの平穏な日々に波風を立てるのが、松村北斗が演じる、転職してきたばかりでやる気がなさそうに見える山添くんの存在です。