間違った命令に従った場合は・・・戦犯裁判で抗弁にならなかった日本の認識~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#45
米軍機搭乗員3人を処刑したとして、BC級戦犯に問われた石垣島事件。米軍の調査官は、命令なく「共同謀議」で殺害したことになるように調書を取ったが、裁判が始まると被告となった元日本兵たちは、自分たちの意思ではなく「命令に従った」と供述を変えた。しかし、結果的には41人に死刑が宣告されるという、横浜裁判の中で最も過酷な判決となった。「命令に従った」はどのように判断されたのか。それが分かる資料がみつかったー。 【写真で見る】石垣島事件の法廷 傍聴席に座る被告たち
判決直前の問い合わせ
前回、国立公文書館に所蔵されている、「横浜石垣島弁護団松井調査官よりの照会文回答案」という文書から、命令についての海軍の見解を紹介した。 「命令とは、指揮権を有する上官が、部下に行為又は不行為を命ずるもので、その条件としては、命令者及受命者の職務権限内の事項に関し、且つ適法なるものでなければならない」そして「命令に対する服従は絶対的」であると記載されている。 石垣島事件のファイルの中に、この文書が作られた経緯がわかる英文の文書があった。日付は1948年2月26日。この日、横浜裁判の法廷では最後の証人尋問が行われ、次回、3月8日に論告が行われることが決まった。 このタイミングで松井調査官から厚生省復員局へ、できるだけ早い情報提供が求められたのだ。石垣島事件の被告らを弁護するための情報となっている。 〈写真:横浜軍事法廷がひらかれた横浜地方裁判所(米国立公文書館所蔵)〉
命令が間違っていた場合は・・・
問い合わせの内容は、 <戦時中、日本海軍士官の発した命令> (a)命令とは如何なる意味か (b)如何なる程度にこれに従わねばならなかったか (c)命令が間違っていた場合、例えば敵俘虜を銃剣で殺せ等の命令の場合はどうか (d)部下は自己の意見を述べられるか (e)命令が発せられた後、部下は発言権があるか (f)命令を発した士官は部下の反対もしくは意見を受け容れねばならないか (g)部下はその命令が間違いか否かに頓着なくこれに従わねばならないか (h)戦時中戦地にあって、間違った命令か否かに拘らず上官の命令に従わなかった場合の罰は何か 〈写真:佐世保海兵団〉