衆院選で長瀬智也も標的に…芸能人の政治的発言を若者が「ダサい」と言い放つワケ
● 与党批判だけが 「政治的」と言われやすい背景 まず、長瀬さんの投稿は、皮肉っぽくはあるものの、強い言葉を使って自民党や裏金問題を批判しているわけではない。それでもなお、強い反発を受ける。 これは一つには、与党批判のときだけ「政治を語るな」と言われやすい、という問題がある。 たとえば最近、講談社の漫画誌『モーニング』に連載中の『社外取締役 島耕作』の中で、辺野古の新基地建設に抗議する人が「日当」をもらっているというセリフが、まるで事実かのように掲載された。「日当デマ」は、以前から基地建設に抗議する人に浴びせられてきたものであり、結局、編集部と作者がお詫び文を出した。 「辺野古」というキーワードについてネット上で特に顕著な傾向として見られるのは、与党寄りの人は新基地建設に抗議する人に対して冷たく、野党寄りの人は抗議する側に立つことだ。 今回の場合も、作品内のセリフに抗議したのは野党支持者が多く、擁護したのは与党支持者が多かった(少なくとも筆者にはそのように見えた)。話が長くなって恐縮だが、漫画家がその作品やSNS投稿で野党寄り(あるいは、そう受け取られる)の主張を行うとき、「漫画に政治を持ち込むな」「キャラクターに政治的発言をさせるな」と批判が上がることがある。 たとえば、『遊☆戯☆王』の作者・高橋和希さんは2019年の選挙前に自身のInstagramで「独裁政権=未来は暗黒次元(ダーク・ディメンション)!」などとセリフを書き込んだキャラクターのイラストをアップして批判を受け、その後謝罪している。 『社外取締役 島耕作』の場合、そのセリフを批判する人はいても、「マンガに政治を……」といった批判はほとんどないように見えた。
これまで比較的大きな話題となった芸能人の「政治的発言」をピックアップすると、きゃりーぱみゅぱみゅさんの「#検察庁法改正案に抗議します」(2020年)や、辺野古の工事を中止する署名を紹介したローラさん(2018年)など。あるいは、小泉今日子さんやLUNA SEAのSUGIZOさん、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんらは、政権(あるいは現政権の推し進める政策)に批判的・懐疑的なスタンスのタレントとして「政治的」と言われやすい。 政権に批判的・懐疑的な発言だけが「政治的」であると言われやすい風潮は確かにある。 ● 批判を嫌う若者は「野党」が嫌い? 国民民主党が躍進した本当のワケ ただ、もう一つの理由として挙げられるのは「批判を嫌う若者」の存在である。「SNSではおじさんやおばさんがしょっちゅうけんかしていて怖い」「政治批判をしている人に、面倒なので関わりたくない」といった声を10代~20代から聞くことは少なくない。 今回の選挙で、10代~20代から支持を集めたのは国民民主党だった。裏金問題のある自民党にも入れたくないが、かといって「野党は批判ばかり」のイメージが強い立憲民主党も違うと考える、そういう層を取り込んだのが国民民主党だったと分析されている。 「野党は批判ばかり」と言われている野党からすれば、裏金問題だけではなく追及しなければならないことは多々あるのだろうが、追及すればするほど、その問題に関心が高くない層からは特に「なんだかわからんが批判ばかりで良くない」と思われてしまうところがある。 自民党議員が批判ばかりしていれば、批判を嫌う若者が自民党を嫌うこともあり得るだろうが、自民党は与党であるため、批判を受けることはあっても逆は少ない。「批判を嫌う若者」の存在が無視できない現代において、そもそも野党は不利な状況だ。 自公が過半数を取ることができず立憲民主党は議席を伸ばしたが、国民民主党が自民党と手を結ぶ気配が見え、政権交代には至らない空気である。国民民主党に入れた人はそれでいいのかという声があるが、どうなのだろうか。政権に批判的な声だけが「政治的」と言われやすく、また批判自体が嫌われやすい社会の中では、政権交代を目指すというよりは、「なんとなくスマートに見えるから」国民民主党を選んだ人もいるのではないか。