安芸高田・石丸市長の都知事選出馬で「残された公務員たち」が今考えている「身の振り方」
世間の話題をさらう首長たち
2020年8月から広島県安芸高田市長を務めてきた石丸伸二氏が、今夏に行われる市長選挙(2期目)への不出馬を表明し、その後、東京都知事選挙に出馬するため市長の任期満了を待たずに6月9日付で退任したことが話題になっている。 【写真】月収16万円、老害のようなベテラン議員…「地方議会」のヤバい現実 石丸氏といえば、市議会議員の居眠りに対する苦言をきっかけとした議会との対立や、記者会見における報道機関との丁々発止のやり取りなどが、議会中継や記者会見の配信動画を通して近年ネット上で大きな話題となっていた政治家である。 この4年弱、石丸氏が議論により相手をねじ伏せていく様子を見てきた人たちにとっては、地方政界やオールドメディアに長年残されていた「甘え」や「もたれ合い」といった不条理を忖度なく追及し、解明することに腐心する姿が、ある意味爽快に感じられたかもしれない。 また、石丸氏は地元を活性化するため、道の駅に大手生活雑貨店「無印良品」の誘致を計画したり、公募で選ばれた人材を副市長に登用したりしようとしたこともある。いずれも市議会の反対により実現することはできなかったが、リーダーとして強い意志を持って、(感情的なわだかまりに起因するものを含めて)利害が対立する者たちとの対決も辞さずに、自分の信念に基づく施策・事業を牽引しつつ、地方議会と首長の関係の在り方についても問題提起してきた人である。 これまで地方政界では、石丸氏に限らず、世間の話題をさらうような公約や方針を掲げ、その実現に向けて精力的に立ち回る首長(知事・市町村長)が何人もいた。読者の記憶に残っているところでは、かつて大阪都構想の実現を目指して大阪府知事・大阪市長を務めた橋下徹氏や、直近では、リニア中央新幹線建設工事への反対姿勢をはじめとする様々な言動により物議を醸しつつ静岡県知事を務めてきた川勝平太氏などが挙げられるだろう。
市長一人でこなしているわけではない
石丸氏を含め、そんな個性的で話題性の強いリーダーが登場したとき、世間一般では、各種メディア(特にネットメディア)が伝える情報に影響されて喝采を送る人が少なからずいる(もちろん激しい批判もある)。だが、そういった一見華々しそうなリーダーの「活躍」の陰に、ドロドロとした問題が横たわっていることをご存じだろうか。 それは、選挙で当選してきた個性的なリーダーと、議会や地域住民などの間に軋轢が生まれることにより、リーダーに仕える事務方(地元自治体の職員)が、平たく言えば「板挟み」の立場に置かれてしまうことである。 近年、ネット上にアップロードされてきた石丸氏の記者会見や議会答弁の動画を見ていると、起きた問題に対して、とても頭の回転が速い市長が一人でキビキビと判断し、対処しているように見えなくもない。確かに記者会見などの応答だけならばそれも可能だろう。 しかし、役所の仕事全体、すなわち役所が抱える多岐にわたる事業を企画し、予算措置を行い、実現・実行に至るまでの調整を含めた細かく膨大な作業は、量的にも質的にも決して市長1人でこなせるものではなく、市長の部下である多くの事務方職員が分担していることを忘れてはならない。 安芸高田市の場合、執行部(市長とその部下の事務方組織)と議会・議員の関係が、訴訟沙汰になるまでギクシャクしたことにより、議会は様々な機会(予算や条例制定、幹部人事)で市長側の提案を否決した。見方によっては、意趣返しとして拒否権を発動したようにも受け取れるのである。 もっとも、それも「政治」のなせることだから仕方がない、といえばそうかもしれない。