「育児支援のボランティアにも、もう見きれないと断られ…」障害がある子をもつシングルマザーに立ちはだかる“体験格差”の壁
マイノリティとされてしまう家庭における「体験格差」の現実
「子どもにはできる限り色々な『体験』をさせてあげたい」そう考える親御さんは多いと思います。 【こちらも話題】「突然正座になって、泣きながら『サッカーがしたいです』と…」シングルマザーが痛感した“子どもの体験格差”の厳しい現実 でも、家庭の事情や収入の問題などで、それが出来ない家庭も存在します。 そんな「体験格差」が、現代社会の新しい課題としていま注目を浴びています。 そこで今回は、今井悠介さんの著書『体験格差』から“事例:障害のある子を育てる”というトピックスをご紹介。 障害を抱える子どもや、大人の人数に対して子どもの人数が多くなる多子世帯、また外国にルーツを持つ親子など、この社会の中でマイノリティとされてしまう家庭における「体験格差」に焦点を当てたいと思います。
障害のある子を育てる
鎌田(かまた) かおりさん 長男(中学生)・次男(小学生) 鎌田かおりさんは障害のある子どもを育てている。長男には発達障害(自閉スペクトラム症)がある。 ―今は鎌田さんお一人で二人のお子さんを育てられているんですね。 弟が小学校の2年、3年ぐらいのときに、弟が兄を精神的に追い抜いてしまったようなところがありました。その頃、兄は同じ小学校の高学年で、支援クラスにいて。1年生とか2年生の子たちと遊んだりしていました。 二人がけんかしても、兄が弟に口で勝てないんですよね。弟のほうが勉強もできて、兄に教えることもあるんですけど、ちょっと小馬鹿にした感じで言ったりすると兄が怒ってしまったり。自分が「お兄ちゃん」という気持ちは強くて。 上の子は今中学生だけど、お店屋さんごっこが好きで、折り紙で売り物をつくったり、おもちゃのお金をつくったり、それでおままごとみたいなことをしたいんですね。でも、それを周りで付き合ってくれる人がいないんです。弟にとっても、そういう楽しさはもう終わってしまっていて。 それで、弟がどうやったら遊んでくれるだろうと考えて、放課後に通っている児童デイ(*放課後等デイサービス)で出るおやつを食べずに家に持って帰ってきて、それをお店屋さんごっこの商品として弟に売るんですね。自分がつくったお金を渡すので、弟も付き合ってくれるんです。ただ、これを学校でやるとなると、なかなか難しいですよね。 ―上の子を育てる中でどんな特性を感じていますか。 ものすごく衝動性が強いので、安全確認とかがおろそかになりますね。イオンとかに3人で行くと、駐車場に着いたら玄関目指してダッシュする、みたいな。衝動性を常日頃ずっと抑えているから、「お母さんが思っている以上に本人はすごいがんばってるよ」と病院の先生にも言われたことがあります。 一人でいると何をするかわからないので心配です。以前に比べたら衝動性がだいぶ落ち着いてきた感じもするんですけど、これがほしいとか、これがやりたいというのがいまだに強いので。お留守番ができるようになってくれると変わってくるのかなと思ったりはするんですけど、難しくて。 仕事も上の子のお迎えがあるので、残業も一切できないんですね。だから、今手取りで13万円に届かないぐらいの給料ですが、そこから減ることはあっても増えることはないです。病院だったりで、早くお迎えに行くときは早退になるので給料が減ります。 下の子が小2の頃に地域のサッカークラブに入りたいと言ってたんですけど、私が仕事の関係でクラブまでの送り迎えができないのと、上の子を一人で家に置いておけないというのもあって、させてあげられませんでした。弟には「あなたが一人で行けるようになったら」と話をしたんですけど。 育児支援のボランティアの方にも上の子はもう見きれないと断られました。大変って言われて。 ―下の子がサッカーのクラブに入るうえでお金以外の色々な壁がありそうですね。ひとり親であること、仕事をしていること、お兄ちゃんに障害があることなど。 上の子はパソコンが好きなんです。小学校のときにプログラミングコンテストで賞を取ったこともあります。 その頃の学校の先生がすごく良くて、ダメなことはダメってちゃんと言うけど、やりたいことはやらせてくれる、みたいな。パソコンに使われる人じゃなくて、使う人にならないとダメだよとよく言ってました。あるNPOからパソコンを借りれるというのを知って、今は兄弟二人分を借りています。 おうちの近くにプログラミング教室がオープンするというのでチラシが入ってたんですけど、入学金で5万円とかかかって、月謝も2万円だったかな。計算すると1回30分が5000円で、本人も「高いね」と言っていました。 だから、上の子も下の子も、本人たちとしてはやりたいことがあるんですけど、ことごとく私が却下していくんですね。ごめんねと思う気持ちもあるんですけど、最初はがんばって行かせたとしても、コンスタントに行かせ続けるのは難しいので。 ……鎌田さん自身も母子家庭で育ったという。離婚される前と後とで変わったこと、そして実母から言われた衝撃の一言とは――。
〈著者プロフィール〉今井 悠介
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。1986年生まれ。兵庫県出身。小学生のときに阪神・淡路大震災を経験。学生時代、NPO法人ブレーンヒューマニティーで不登校の子どもの支援や体験活動に携わる。公文教育研究会を経て、東日本大震災を契機に2011年チャンス・フォー・チルドレン設立。6000人以上の生活困窮家庭の子どもの学びを支援。2021年より体験格差解消を目指し「子どもの体験奨学金事業」を立ち上げ、全国展開。本書が初の単著となる。
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