新作がカンヌで賛否両論。巨匠 フランシス・フォード・コッポラ監督の歩みを振り返る
襲い掛かった悲劇
破産はしたけれど、人生が順調だったフランシスを悲劇が襲ったのは、『友よ、風に抱かれて』(’87)撮影中のことだった。撮影スタッフとして参加していた長男ジャン=カルロ(愛称ジオ)がボート事故で急死したのだ。ボートを運転していた俳優グリフィン・オニール(ライアン・オニールの息子)は過失致死を認めたが、罰金200ドルという軽い処罰で済んでいる。ジオの婚約者ジャッキー・デ・ラ・フォンテインは当時、妊娠中。生まれた孫ジアも現在は映画監督として活躍中だし、彼女のデビュー作『パロアルト・ストーリー』(’13)には声の出演をしている。そして娘のように可愛がったジャッキーが富豪のピーター・ゲッティと結婚した際に花嫁と共に祭壇を歩いたのもフランシスだった。 (映画『友よ、風に抱かれて』(’87)撮影中、フランシス・フォード・コッポラ, ジェームズ・カーン)
あのマッド・デイモンを発掘?
ヤング・ハリウッドの時代を牽引したと書いたが、若い才能を見抜くフランシスの才覚は相当だ。『アウトサイダーズ』(’83)組のトム・クルーズやロブ・ロウは今も人気スターだし、監督として活躍する俳優も少なくない。製作作品『ミ・ファミリア』(’95)に小さい役で出演したジェニファー・ロペスを監督作『ジャック』(’96)に起用したり、まだ無名だったケイト・ベッキンセールを『月下の恋』(’95)ヒロインに抜擢したり。『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(’97)でハリウッドに旋風を巻き起こす前のマット・デイモンを『レインメーカー』(’97)の主役に起用していて、フランシスがその才能を見抜いていたからだろう。 (写真:マッド・デイモン)
巨匠のやる気は衰えない
2000年代に入ると製作が軸となり、監督を手掛けたのは『コッポラの胡蝶の夢』(’07)と『テトロ 過去を殺した男』(’09)、『ヴァージニア』(’11)の3本だけ。どれも大ヒットとはいかなかったし、批評家の賛否も分かれた。かつての才気を感じられる作品を監督するにはもはや歳をとりすぎたのかもしれない。しかし、フランシスはやる気だ。『地獄の黙示録』(’79)完成後に構想を始めた『メガロポリス』(’24)を45年がかりで作り上げた今、早くも次のプロジェクトに取り掛かっているという。そんなフランシスの薫陶を受けたソフィアやローマン、孫のジアは新作を世におっくり出しているし、子役として活躍するローマンの娘パスカーレちゃんも最近、監督業をスタートした模様。フランシスの映画マジックは永遠に続きそうなのだ。