美容室が過去最多ペースで倒産、もう技術だけではやっていけない時代に…チェーン店は労働環境改善に取り組むも、個人経営店の行く末は…
近年の美容室業界の変化
美容師の実際の勤務時間は、店舗の営業時間外に準備や片付け、カットやスタイリングの練習を行なうため、残業が常態化し、1日10時間以上になることも少なくない。休憩や有休も取りづらい現状にあり、美容室業界の労働環境にはまだまだ改善の余地があるようだ。 「最近では多くの美容学校が、就職の条件として社会保険の加入を重視しています。以前は就職先の美容室でただ技術を学べればよかったのですが、現在は労働環境が安定しており、なおかつ教育制度のあるサロンを就職先として優先して選ぶ傾向があるようです」 例えば、2016年9月に創業し、現在全国に21店舗を展開している企業「THEATER」(シアター)は、入社半年後にスタイリストデビューが可能という独自育成機関“THEATERアカデミー”を設けるといった教育制度の充実を図り、注目を集めている。 労働環境の改善だけでなく、この「THEATER」やかねて若者から絶大な人気を誇るヘアサロン「SHIMA」など勢いのある企業を中心に、現在の美容室業界ではSNSを利用したサロンアピールや集客も欠かせない。 インスタグラムを店舗ごとではなく、美容師ごとに運用し、インフルエンサーに匹敵する人気美容師も続々と誕生している。 「インスタグラムのDM機能で予約を取ったり、次回の施術は専門アプリやLINEから予約するように促したり、美容検索サイト『ホットペッパービューティー』のスタイリストページに促したりと、近年では集客と予約方法も多様化してきました。 また、お店の雰囲気や、スタイリストの技術力を知る手段としてもインスタグラムは欠かせないツールになっています」
今後の美容室業界の動向
美容室業界の今後の動向についてはどうなのだろうか。 「今の消費者は、生活コストがインフレで上がっている一方で、給料はあまり上がっていないのが現実です。そうなると、生活費の中でも必須とはいいがたい美容に使うお金を減らす必要があり、価格が少しでも安い美容室を探すようになる。 顧客がサロンを選ぶ際には、技術力や店の雰囲気が重視される側面も大きいので、顕著には現れないかもしれませんが、低価格サロンの需要が高まるという傾向がしばらく続くかもしれません」 たとえ、独立・開業したとしても、個人経営を成り立たせるのはさらに苦しくなるだろう。 「美容室業界では今後、労働環境が整った店舗に人材が集まると予測されます。例えば全国に展開するヘアカット専門店『QB』は、給与の高さに加え、残業手当も1分単位で支給されていたり、大手美容室・美容院『Hair&Make EARTH』では奨学金返済サポートなどの制度が充実していたりと、美容師の労働環境の改善に着目する企業も増えています。 このように大手企業のほうが福利厚生や給与の面で、個人経営店よりも充実しているケースが多々あるため、人材が大手企業に流れ、個人経営店が減少していく可能性は否定できません」 取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/shutterstock
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