フライ級転向の寺地拳四朗が10月13日、王座決定戦のリングへ! ボクシングの集大成に向けて見る「夢」
カニサレス戦から二日後、拳四朗はかねてより状態の悪かった右拳を手術した。右手中指の伸筋腱脱臼――。いわゆるボクサーズナックルと呼ばれる職業病のような症状だ。握り拳を作るいわゆるナックルの部分の中央に走る腱が、何らかの外傷で小指側に落ちてしまい、炎症を起こして痛みが生じる。痛みが生じる中どうにか凌(しの)いできたが、現役を続けるには厳しい状態になったため手術に踏み切った。術後の順調に回復し、7月からスパーリング再開。現在はサンドバックを全力で叩き続けても痛みは出なくなったそうだ。 半年間続いたリハビリ期間中、拳四朗は様々な思いを巡らせた。 「いまは気持ちが揺れることも多いですね。『あとどんぐらい(ボクシングが)できんねやろ』とか、『ピークは過ぎて来てんのかな』みたいな事も考えたりします。昔の方が楽な気持ちでボクシングと向き合えていたのかな、と思いますね。そういう難しさはありますが、なるべく気にしないようにしています。目の前の試合だけに集中するように心がけています」 プロ10戦目、25歳で初めて世界チャンピオンになってから7年という時が過ぎ、来年1月6日には33歳――。 元々は、好きで始めたわけでもないボクシング。気づけば10年以上、プロとしてキャリアを踏んでいた。最後の時をリアルに意識するようにもなり、ボクサーとしての自分について深く考える時間が増え、揺れ動くようになった気持ちの中で出した答え。それが「フライ級転向」だった。 ライトフライ級での実績が評価された拳四朗は、タイトル返上と同時にWBCフライ級1位にランキングされ、復帰戦でいきなり王座決定戦に挑む事になった。 WBA王者はユーリ阿久井政悟(倉敷守安)。WBO王者はライトフライ時代、魂を削り合うような激闘を繰り広げたアンソニー・オラスクアガ(アメリカ)。いま日本のボクシングファンの間では、世界主要4団体すべて日本人が世界王者のバンタム級に熱い視線が注がれるが、拳四朗の転向でフライ級も俄然目が離せなくなった。ライトフライ級では"安定王者"と評価されながらも果たせなかった4団体統一に向けて、拳四朗と加藤、ふたりはどんなイメージを持っているのか聞いてみた。 (次回へ続く) ■寺地拳四朗(てらじ・けんしろう) 1992年生まれ、京都府出身。B.M.Bボクシングジム所属。2014年プロデビューし6戦目で日本王座、8戦目で東洋太平洋王座獲得し、2017年10戦目でWBC世界ライトフライ級王座獲得。8度防衛成功し9戦目で矢吹正道に敗れ王座陥落するも翌2022年の再戦で王座奪還。同年11月には京口紘人に勝利しWBA王座も獲得し2団体王者に。今年7月、フライ級転向発表し王座返上。今月13日、クリストファー・ロサーレス相手にWBC世界同級王座決定戦に挑む。通算成績24戦23勝(14KO)1敗 ■加藤健太(かとう・けんた) 1985年生まれ、千葉県出身。2005年三谷大和スポーツジムから20歳でプロデビュー。2006年東日本新人王トーナメントはスーパーライト級で決勝進出。右拳の怪我で1年間ブランクの後出場した2008年同トーナメントはライト級で準々決勝進出し、のち日本王座に就く細川バレンタインと引き分けた。網膜剥離を煩い24歳で現役引退。通算成績9勝(7KO)1敗1分。26歳で三迫ジムトレーナー就任。現在はチーフトレーナーとして名門ジムを支える。2019、2022年度最優秀トレーナー賞受賞 取材・文・撮影/会津泰成