ミーアキャットをゆうパックで郵送し死亡 あるペット繁殖業・元従業員の告白【杉本彩コラム】
生きた動物が日本郵便のゆうパックで郵送されていることを、皆さんはご存知でしょうか。現在、動物愛護管理法改正について超党派議員による会議が行われているが、先日「動物の輸送」についての現状と課題が議題にあがった。 某エキゾチックアニマルの繁殖販売業者に従事していた人の内部告発によると、爬虫類や生餌と明記し、哺乳類をゆうパックで郵送していたという。多い時で月に20件以上。チンチラやシマリス、ウサギ、ミーアキャット、フェレット等をペットショップや動物園宛に、ときには一般の客にも送っていたというのだ。 輸送は動物に大きな負担がかかり死亡リスクが高くなる。丁寧に輸送されていると考えられる動物園間の輸送でさえ、度々死亡することがある。ましてや命であることを無視するような不適切な輸送では、死亡して到着することは珍しくない。 内部告発によると、ゆうパックで郵送され、途中で死亡したミーアキャットは、失禁や嘔吐があり、端に敷料として使われていた新聞紙が固まっていて、もがいた形跡があったという。現在さまざまな動物がゆうパックで送られているが、受付けた局員は口頭のみの確認だけで、その中身をきちんと確認することはない。告発者が退職後、郵便局本社へその実態を伝えたが、改善されることはなかった。今もなお、ゆうパックで哺乳類をはじめとした動物の郵送がされている。 夏は暑い車の中で水も飲めずに苦しみ、冬は寒さやホッカイロによる高温で死亡するのだという。また、某ペットショップの元従業員の証言では、ゆうパックで郵送されてきたげっ歯類・爬虫類・鳥類が、まったく異なる種類であるにもかかわらず、同じ箱に簡易な仕切りで入れられ、死亡した状態で届くこともあったという。輸送費用を節約するため、このように非倫理的な扱いをするのだ。 日本郵便のQ&Aには、哺乳類以外は条件を満たしたものに限り取り扱うが、配達時に死亡していた場合において、当社は責任を負わない。その条件として、健康体であること。温度調節や換気は行わない。脱出や排せつ物等の漏出がないよう、包装し悪臭を発しないこととある。すなわち呼吸する動物を密閉し温湿度管理もないところで郵送するが、死亡していても責任は負わない。それでもいいならどうぞというスタンスだ。なぜ哺乳類以外は良しとするのかも理解し難い。 しかもゆうパックは1~4日程度かかり、遅延や不在の場合さらに日数がかかるため、その間放置している状態は動物虐待でしかない。しかし、日本郵便は箱の中身を開けて確認すらせず、しかも死亡を前提として、送り主に承諾させているため、問題が見えづらく、告発されることがない。 また輸送の問題は、動物への負担や死亡のリスクというアニマルウェルフェアの観点からだけではなく、公衆衛生上のリスクも高い。不適切な輸送は、細菌・ウィルス・ダニなどの感染拡大にも繋がる。これらは人畜共通感染症の媒介体となり、人間への健康被害という問題もはらんでいる。そのため、近隣他国でも動物の輸送にはさまざまな規制があるが、我が国は極端に未整備な状態なのだ。 常識的に考えても、生きた動物を箱に入れて、温度・湿度管理もない、食事や水も与えないという状態で輸送するなど言語道断だ。しかし、それを依頼する者もいれば、ニーズがあるからと、無責任に請ける企業もあるわけだ。企業のモラルは、コンプライアンスはいったいどうなっているのか。動物愛護や動物福祉といった社会規範に反しているし、動物愛護法に関する法令遵守もしていないことになる。 現在、動物取扱業は、動物の繁殖・販売、ペット美容(トリミング)、ペットホテル、ペットシッター等の保管、貸出し、展示、訓練、ペットオークション、老犬老猫ホームなどを営む場合には、「動物の愛護及び管理に関する法律」に基づき、第一種動物取扱業の登録と動物取扱責任者の設置が義務付けられている。 しかし、生きている動物を扱う業者はこれだけではない。動物実験施設、実験動物販売業、畜産関連業、生餌業、補助犬に関する施設などもそうである。また近年では動物を使用した動画配信を生業とする者も増えてきた。これらの業種も動物取扱業の規制の対象にすべきだし、その中でも輸送業者は、多くのさまざまな業種からの依頼を受け、多種多様な動物を扱っている。先にも述べたが、輸送は動物に最も負担がかかり死亡リスクも高いことや、公衆衛生上の問題からも、動物取扱業にすること。これには1ミリの疑問の余地もない。次期法改正では、対象業種の拡大を実現していただけるよう働きかけていきたいと思う。(Eva代表理事 杉本彩) × × × 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。