災害支援、にぎわい作り……自治体との提携も続々、コロナ禍を経たキッチンカーの「いま」を聞く
有志の災害支援は「かえって迷惑」? 善意を生かすには……
キッチンカーの活躍の場は、その他の面でも変化しつつある。石澤氏が力を入れる取り組みの一つが防災だ。 きっかけは、同氏がキッチンカーのオーガナイズ事業を展開していた2011年の東日本大震災。災害時に避難者に温かい食事を提供したいと支援を申し出る事業者は多かったものの、それぞれが個別に「何かできることはないか」と行政に連絡してしまうことで、かえって現地の負担につながってしまう問題を目の当たりにしたのだという。 しかし、一般人による炊き出しには食中毒の発生事例もあることから、プロの手による支援に需要があるのも事実だ。それならばプラットフォームが信頼性を確保することによって、キッチンカー事業者の支援を被災者につなげられないか――そんな意図から、2019年の9月に組織されたのが「フードトラック駆けつけ隊」。災害時の炊き出しや支援物資の運搬を目的とした、登録事業者による任意団体だ。 組織後1週間と経たずに発生した令和元年房総半島台風の際には、「この場所に来てほしい」という自治体の要望をMellowがとりまとめてSlackで事業者に共有するという仕組みにより、32の事業者によるキッチンカーを派遣。市原市、館山市、南房総市、山武市で、延べ4000食の食事を提供した。参加した事業者の拠点には千葉県のほか、東京都、神奈川県、埼玉県といった近隣自治体も含まれる。 また、コロナ禍の2020年5月~8月には、東京都と神奈川県内の複数の病院において、感染対策の観点から飲食店の利用が困難な医療従事者に対して支援を実施。110の事業者により、延べ1万1602食を提供した。 こうした取り組みを受けて、自治体からの「提携したい」という申し出も増加。地域住民の避難先となることが多い「大学」との契約も増えつつあるという。
ボランティアの負担、営業許可……課題も
しかし、活動の中で難しさが可視化された側面もあり、課題は多い。 まず、支援にあたっての負担を、ある程度事業者の持ち出しに頼らざるを得ない点だ。房総半島台風の際には、特に熱意のある事業者に負担が偏る問題も生じてしまったという。 「熱い人は毎日行きたくなるんです。だから、『あなたは今日行ったから明日はいいです』とスケジュールをわざと外しました。その人自身が続かなくなったら、長期的な支援なんかできない。事業として成り立つようにコントロールしなきゃいけないなと、この時感じました」(石澤氏) こうした状況を受け、Mellowは2021年に「フードトラック駆けつけ隊」を社団法人化した。いまだ資金面では十分とはいえないものの、これによって賛同する企業から月ごと、あるいは災害等の事案ごとに活動費・食材の提供といった支援を募り、事業者に補填(ほてん)するという仕組みを整えつつあるという。 また、「(出店場所の)ネットワークが整っていないと、発災時の支援活動は難しい」と石澤氏は話す。土地勘のない場所にいきなり向かっても、例えば道路が寸断されていれば迂回(うかい)路を探すことすら難しいためだ。 さらに、自治体との調整の問題もある。災害時の無償での炊き出し行為に対して、食品の「営業許可」は求められない。しかし、キッチンカー事業者が炊き出しを行おうとする場合には、見かけ上「営業」との区分が難しい。そのため、一般のボランティアと異なり、市町村単位で発行される営業許可の有無を聞かれることで、支援につながらないケースも少なくないのだという。