甲子園に帰ってきた7年前のエース 巧みな指導で母校に恩返し 東海大福岡の安田大将コーチが見据える次の目標
【記者コラム】 朝一番のひんやりした空気に包まれた甲子園で、ノックバットを握った東海大福岡の安田大将コーチ(24)は選手の誰よりも先に打席に立った。 ■九州勢はここまで2勝【選抜組み合わせと結果】 「甲子園がすごく大きく感じました。自分たちの時にはそんな広いと感じなかったのに。当時は自分のことだけで周りが見えてなかったですね」。7年前の甲子園も初戦は第1試合。寒さの残る甲子園を思い出した。 2017年の選抜大会に東海大福岡のエースとして出場。高校球界の大スターだった早実(東京)の清宮幸太郎(日本ハム)をはじめ、履正社(大阪)の安田尚憲(ロッテ)、福岡大大濠の古賀悠斗(西武)、大阪桐蔭の2年生だった根尾昂(中日)や藤原恭大(ロッテ)らそうそうたる選手がそろった大会だった。 安田コーチの当時の球速は120キロ台ながら、サイドスローから繰り出すテンポの良い投球と抜群の制球力が光った。2回戦で優勝候補だった早実を破り、優勝した大阪桐蔭との準々決勝は根尾から2三振を奪い、藤原は無安打に抑えた。2―4のスコアで惜敗したが、全3試合で完投した。 大学は阪神大学野球連盟の関西国際大に進み、昨年のWBCで世界一に輝いた大勢(巨人)と同期だった。リーグ戦でも登板したが、新型コロナ禍の影響などもあり大学卒業後に野球を続けることを断念。卒業後は母校の社会の教員となり野球部のコーチとして後輩の指導をする道を選んだ。 「野球の指導というより、母校で指導がしたかったんです」。高2の秋は九州大会で準優勝し、選抜大会でも8強に進むなど、さまざまなことを経験し成長させてくれた母校に恩返ししたい気持ちが強かった。 野球部では投手の指導を任されている。エース佐藤翔斗(3年)は最速142キロの本格派右腕。サイドスローの技巧派だった自身とはタイプが全く違うが「大学の時はいいピッチングスタッフがそろっていたので、トレーニングの方法などもいろいろ学べました。チームにもいろいろなタイプの投手がいたので練習方法を聞いたりしてきた。自分の引き出しの中からその選手に合う指導方法を見つけて教えています」と学んできたことを後輩に伝えていく。 選手ともコミュニケーションを取り、佐藤には「俺は甲子園で勝ったけどねー」と負けん気に火を付けようとわざと声をかけることも。「偉そうなところもないし、選手に言うべきことはきちっと言える。何より選手のいい目標になっています」。7年前は副部長だった中村謙三監督は、全幅の信頼を置く安田コーチに投手の指導を一任している。 甲子園を訪れたのは7年前の春以来。今回はアルプススタンドで試合を見守った。一般生徒や吹奏楽部の部員、地元の関係者もたくさん集まったほか、7年前に一緒に戦った仲間もスタンドに駆けつけた。安田コーチは「いろんな人に支えられているんだと改めて思いました」と恩返しへの思いがさらに強まった。 今大会は初戦で宇治山田商(三重)に惜敗。次に目指すのは、自身が果たせなかった夏の甲子園への初出場だ。「佐藤はまだ周りが見えていなくて精神的にも子どものまま。夏までにメンタル面を鍛えていきたい。佐藤だけではなく他の投手も鍛えていかなくては」。教え子と一緒に新たな扉を開くために、指導者としてやるべきことはまだまだある。(前田泰子)
西日本新聞社