今なお色褪せない香港ノワールの最高傑作、『インファナル・アフェア』3部作の世界観に浸る至福
終極に向かう男たちの運命に身悶えする
やはり第1作のこの二人の出会いのシーンと、屋上で対峙しヤンがラウに拳銃を突き付けたクライマックス・シーンは忘れ難い。二人が並んで映るシーンはほんのわずかだが、この二つの代表的な名シーンは20年間たった今も、鮮明に思い出せる。 憂いを帯びたヤンの濡れた瞳――トニー・レオンの真骨頂ともいえる男の色香と、ポーカーフェイスを装いながらも、善人になりたいと願うラウのある意味、健気な想い。だが、結末は決して明るくはない。原題「無間道」は仏教用語で「無限の地獄」という意味がある。それは究極の選択、哀しい決断、そして対決と、避けられない彼らの運命だった。 黒社会のボスにのし上がったエリック・ツァン扮するサムの笑顔も怖すぎる。すべては第1作のオープニング、若者たちと一緒に寺院に参拝するところから始まる。いい人そうな笑顔の裏に隠された野心と非情さ。騙し合い、駆け引きしあう展開は三部作に共通する。どんでん返しにつぐどんでん返し。裏切りが当たり前の黒社会、人を売ることを生業にする潜入捜査官の哀しすぎる宿命。終極に向かうしかない男たちの物語になぜこうも惹かれるのか。 何度でも見直したくなる、確認したくなるシーンが多いだけに、吹替版はドラマに集中できるメリットがある。今回のBlu-rayはこれまで発売されていたパッケージの吹替版と、テレビ放映時の吹替版2種を収録する。見比べるのも一興だろう。 期待を裏切らない、香港ノワールの最高傑作と言っても過言ではない本作は、同じく黒社会の人間ドラマを描いた「ゴッドファーザー」同様、やはり死ぬまでに見ておきたい。 文=岡﨑優子 制作=キネマ旬報社
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