「当たり前じゃない」市村正親、自身の息子と重ねた「ローハンの戦い」親子の絆:インタビュー
俳優の市村正親が、12月27日から公開されるアニメーション映画『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』(以下、ローハンの戦い)の日本語吹替版声優として出演。騎士の国ローハンの偉大なる王、ヘルム王を演じる。J.R.R.トールキンの原作を基に、ピーター・ジャクソン監督によって映画化されたファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・リング』3部作。2004年の「王の帰還」日本公開から約20年の時を経て、『ロード・オブ・ザ・リング』の知られざる200年前の物語を初映画化。本作は、小説「指輪物語 追補編」に描かれる、原作ファンにも人気の騎士の国ローハン最強の王・ヘルム王についての記述を膨らませたオリジナルストーリー。インタビューでは、本作のアフレコエピソード、自身の息子と重ねてしまったシーン、俳優活動で支えられた言葉について話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】 ■自分の子どもと重ねたハレスとハマ ――今アフレコ中とのことなのですが、今どのような感じで進んでいるのでしょうか。(※10月取材時) 重い役だから、とても体力もいりますし、声量も必要なんです。今日はだいぶ声が枯れてしまいましたが、ここまで録ったところは良い感じにできたと思います。 ――『ロード・オブ・ザ・リング』は好きな作品だとお聞きしています。 それほど詳しくはないのですが好きな作品です。3部作はかなり前になりますが観ました。映画館でちょうど上映していて、シンプルに面白そうだなと思ったのがきっかけでした。実際に観て、ひとつの指輪を巡って壮大なドラマが展開されていく、とてもおもしろい作品だと思いました。また、実写でここまでよく作っているなととても感心したのを覚えています。 ――『ローハンの戦い』はアニメーションですが、出演のお話が来た時も興味は強かったわけですね。 『ローハンの戦い』は、映画3部作の200年前の話なんですよね。今回のお話がどのように3部作に関わっていくのかは、まだ全部録り終えていないからこそ、僕も楽しみにしているところなんです。 ――市村さんはとても深みのあるお声をされているので、王様やリーダー的なキャラクターがすごく似合うなと思っているのですが、今回、アフレコに臨むにあたりどのような準備をされたのでしょうか。 アフレコの2日前に台本をいただいたので、ヘルム王が出演するところを急いで確認して、練習をしてみるという感じでした。 ――声のお仕事のときに心がけていることはありますか。 監督の言うことをしっかり聞いて、そこに近づけるようにしています。それに尽きます。今回あったリクエストとしては、そのシーンはゆっくり話してほしい、そこはもっと強烈に、など、他にも父親の愛を持って話してほしいといったリクエストがありました。 ――今のお声の状態から、過酷なアフレコだったことが伝わってきます。 役が体に馴染んでいない状態で演じることになるので、どうしても力が入ってしまい、どこかで無理が生じてしまいます。舞台だと本番までに1カ月ほど稽古を行うので、徐々に体が鳴りはじめていきます。今回はまだ体が鳴っていない状態だから、声帯に負担をかけてしまった部分もあったのですが、今日の分はスムーズに録り終えたので、ホッとしています。 ――全て録り終えた時の達成感はすごそうです。 正直に言うと、一般的な達成感とは少し違うかもしれないです。でも、最後までやり遂げた、という喜びはあると思います。 ――ミュージカルなどのお芝居の時は、また違った感覚もあるのでしょうか。 ミュージカルなど舞台は1カ月くらいありますからね。もうがんじがらめの中でやっていますから、終えた時に自由になるような感覚はあります。 ――ところで、体調管理で気をつけていることはありますか。 よく寝て、しっかり食べる。基本的なことです。ですが体調管理をしっかりやっていても、声のお仕事だと今回のような状況になってしまうこともあります。普段走っていない人が急にフルマラソンをやっているような感じです。いきなりフルマラソンをしたら壊れちゃうでしょ(笑)。 ――今ここまで録られたなかで印象に残っているシーンはありましたか。 ヘルム王が愛馬に話しかけるシーンはグッときました。馬に向かって「行くぞ。よろしく頼むな」と声を掛けるのですが、自分の気持ちが素直に入ったシーンでした。 ――気持ちが入られたとのことですが、そのシーンに重ねた想いがあったのでしょうか。 その馬とは共に戦ってきた間柄というのが大きかったと思います。ヘルム王を乗せているその馬との会話は、僕が今日録った場面では1番すっと入ってきました。 ――戦友ですよね。市村さんはヘルム王の馬のように話しかけたりする存在はいますか。 天国にいる僕の親父とお袋には線香を立てて話し掛けます。それが、毎日の日課になっています。 ――本作は親子の物語でもあります。どこかで市村さんのお子さんと重ねてしまうところもありましたか。 ヘルム王の息子のハレス(CV・森川智之)とハマ(CV・入野自由)のシーンですね。ある場面なのですが観た時に、自分の子どもと重ねてしまいました。ずっと一緒にいることが当たり前じゃないんだなって。 ■「お客様は想像力を持っている」 ――ヘルム王が発する言葉からとても重みを感じたのですが、市村さんが俳優活動の中で、この言葉に支えられた、重みを感じた言葉はありますか。 ある踊りの先生がおっしゃっていた言葉なのですが、お客様は、お金を払って想像をしに観に来ているんだから、その想像力を掻き立てるようなお芝居をしなさい、という言葉にとても支えられました。「お客様は想像力を持っている」というのは、俳優活動の中でとても励みになりました。 ――踊りの先生からなんですね。 踊りも芝居と同じく表現することですから。さまざまなことを芝居はセリフで表現する。ただ、セリフを分かりやすくしようとしなくても、そこでしっかり生きてさえいれば、 お客さんの想像力の中でどんどん膨らんでいく、と教えていただきました。僕ら役者は伝えようという感覚ではなくてもいいんです。今回のような声の仕事も、そういうところは同じだと思っています。 ――さて、MusicVoiceでは、ライフスタイルの中にある音楽についてお聞きしているのですが、市村さんは普段どのような音楽を聴かれていますか。 楽屋で支度をしたり、仕事している時に音楽を流しているのですが、その日の自分に合う曲を聴いています。 ――日によって変わるんですね。 そう。朝はこの曲、夕方はこの曲だなとか選んでいて、時間帯によっても変わります。今はいろいろな音楽が簡単に聴けますし、スマホの方から提示してくれるものもありますよね。なので、アーティストよりもリズムが重要だったりします。今の自分に合うというところで、音楽と付き合っています。特に楽屋にいる時は音楽がないと本当に寂しいです。 ――過去にハマっていた音楽はありましたか。 自分が出演するミュージカル曲です。『コーラスライン』、『オペラ座の怪人』、『ミス・サイゴン』など、出演している作品の曲を聴いていて、そのときは他のものはほとんど聴かなくなります。 ――市村さんがミュージカルで歌唱されるときに心掛けていることは? 役の心で歌うことです。ミュージカルではセリフで言っているのと歌の歌詞は同じ気持ちです。でも、歌の場合はセリフのようにたくさんは喋れないので、その役の内面を歌の中に込めるようにしています。 ――最後に『ローハンの戦い』を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。 ストーリーはもちろん、非常に音楽も良いですし、ヘラの活躍、ウルフの過去、 親として、王様としてのヘルム王の生き方、 さまざまな人生が激しくぶつかり合い、ものすごいドラマになっています。普通のアニメとは一味違うエネルギッシュな作品になっているので、楽しみにしていてください。 (おわり)