Excelは「この列から県名を抜き出して別の列に挿入して」も実行可能に。Microsoft 365 CopilotのWave 2はここがすごい
米Microsoftは9月、「Microsoft 365 Copilot Wave 2」と題して、Microsoft 365におけるAI機能「Microsoft 365 Copilot」のさらなる連携、強化について発表した。簡単に言うと、WordやExcel、PowerPointなどでCopilotの活用幅を広げ、より高度な作業をより効率的に行なえるようにするアップデートだ。 【画像】日本マイクロソフトのオフィスにて担当者にデモしていただいた 具体的にどんなことが可能になったのか、日本Microsoftの担当者による解説を元に動画を交えながら紹介していきたい。なおMicrosoft 365 Copilotは、Microsoft 365のの追加サービスとして提供されるサブスクサービスとなっている。個人ユーザーの場合は、Microsoft 365 PersonalかFamilyに加えて、Microsoft Copilot Proを、企業ユーザーの場合は法人向け Microsoft 365に加えて、Microsoft 365 Copilotを契約することで利用できる。 ■ 進化し続けるAIモデルを採用し、スピード・満足度が向上 ChatGPTなどを展開するOpenAIと協業しているMicrosoftは、CopilotにおいてChatGPTと同様のAIモデルであるGPT-4などを採用してきた。現在は2024年前半にリリースされたGPT-4oも取り入れているが、ユーザーのCopilotへの質問・指示内容を判断して、最適なAIモデルや機能を適用するような“オーケストレーション”を強化。これによってCopilotの応答速度を平均で2倍以上高速化するとともに、回答内容に対するユーザーの満足度も3倍近く向上させているという。 たとえばMicrosoft 365 Copilotユーザー向けのコラボレーションツール「Copilot Pages」において、AIチャット機能の「Business Chat」を利用する際、文書ファイルの内容を要約をするのにかかる時間がかなり高速化された。見せてもらったデモでは、体感で2倍以上速くなっていそうだった(Business Chatは2024年9月から順次ロールアウト)。 さらにBusiness Chatで得られた回答は、ボタンを1クリックするだけでCopilot Pagesのページ編集画面に移すことができる。その後やりとりした書式付き文言や表データも、体裁を保ったままコピー&ペースト可能で、他のユーザーと共同でのページ編集作業にも素早く移行することが可能だ。 ■ 複雑なExcel関数やグラフ表現を簡単な指示で実行できる「Copilot in Excel GA」 こうした性能強化を背景にしつつ、Microsoft 365の各アプリケーションについては、Copilot連携機能のアップデートも実施した。 まずExcel上で動作する「Copilot in Excel GA」では、Copilot経由で扱えるExcel関数が120にまで増加、主要な関数はほぼ網羅する形となった。これにより、Excel内で立ち上げたCopilotのプロンプト入力欄から自然な口調で指示を与えるだけで、ユーザーが求める処理や分析が可能になる。 活用の一例として同社が示したのは、Excelシート内の住所録から都道府県の文字列のみ抽出する処理。通常はExcel関数を駆使することになるが、「先頭の3文字を抜き出す」というような単純な処理では不十分で、複数の関数を組み合わせた複雑な処理が必要だ。これをユーザーが手入力していくのは骨が折れるが、Copilotを利用すれば「住所から都道府県名を抜き出して列を挿入して」のように指示するだけで実現できる。 Copilotは都道府県名を抽出するにあたって適切な関数を組み立て、最初にチャット内で提示する。ユーザーは最後に表示されたボタンをワンクリックすれば都道府県名の列を挿入できる。 結果として生成された関数に至るまでの考え方や処理手順を詳細に確認できるようにもなっているため、ユーザー自身のスキルアップやハルシネーションの対策にも役立てられるだろう。 また、企業の営業活動に関するデータをまとめたExcelシートに関して、「営業成績のランキングを教えて」のようにCopilotに指示すれば、商談における成約合計金額上位のセールスパーソンをグラフと表の形で出力することもできる。 さらに「○○さん(トップセールスの名前)が担当するパイプラインに対して、プロダクトシナリオごとの収益をグラフ化して」のように指示すると、商談時にどの製品を提案すると成約に至りやすいのか、といったことを理解できるようにもなる。わざわざ分析のために自分でデータの抽出方法を考え、加工する必要がなくなるわけだ。 ほかには、数値の傾向を知りたいときや合計を求めたいときに、対象のセルを範囲選択してCopilotアイコンをクリックするだけで、その範囲のデータ内容から推測される分析手段の候補をCopilotが自動で判断し、ボタンとして表示する機能もある。分析に使用可能な機能をメニューからユーザー自ら探して実行するのではなく、候補表示されたボタンをただクリックするだけで即座に知りたい情報が得られる仕組みだ。 また、「Copilot in Excel with Python」という機能も追加されている。「Pythonを使用してより深い分析結果を得たい」というようにCopilotに指示すると、シート内の対象データをPython言語で処理して別シートに整理し、その上で「製品カテゴリーの販売トレンドを時系列で分析して」と指示すれば、Pythonのライブラリなどを活用した複雑なグラフで表現する。 この機能は現在のところはまだパブリックプレビュー版のため、英語プロンプトのみの対応となっているが、文字列の出現頻度からワードクラウドを作成したり、日ごとの売上データからヒートマップを作成したりといったような、素のExcelだけでは表現が困難なグラフィックスを伴うデータ分析も可能になっているのが特徴だ。 ■ 複数ファイルを元に文書生成できる「Copilot in Word」 Word上で動作する「Copilot in Word」においては、単体ファイルだけでなく、複数のファイルを読み取って、それに基づいたテキスト生成が可能になった。用途としては、一方が情報ソースで、もう一方がテンプレートのような文書だったときに、情報ソースを元にテンプレートの体裁に合わせて出力する、というようなものが考えられる。 あるいは、複数の企業の財務情報をまとめて投資判断に役立てるようなケースもありそうだ。人の手でまとめる場合、各社で情報のフォーマットが異なっているとデータ整理に余計な時間がかかってしまうが、Copilotに依頼すれば即座にレポート化できてしまう。 ■ 本当に必要なPowerPointスライドを生成する「ナラティブビルダー」 「Copilot in PowerPoint」では「ナラティブビルダー」という新機能が利用できる。 これまではPowerPoint上でCopilotに対してプロンプトで指示すると、それに沿ったスライドをすぐに生成していた。ざっくりとしたスライド構成のひな形ができあがるので手間をある程度減らすことはできるが、ユーザーの確認なくすぐに生成が実行されてしまうため「期待した内容になりにくい」という声もあったという。 そのため「ナラティブビルダー」では、実際にスライドを生成する前に、ユーザーが内容を確認、調整するステップが追加された。たとえば「人事担当者が新卒向けに会社を説明する資料を作って」というように指示すると、Copilotがスライドの構成と見出しの案を列挙する。ユーザーがイメージしていたものと異なる部分は、並び替えたり、削除したり、不足している要素があればプロンプトで指示して挿入したりできる。 問題なければ「スライドの生成」ボタンをクリックすると、その内容に応じたスライドが生成され、各項目の内容に沿った写真やイラストなどのストックイメージも適宜挿入されるという流れだ。 ■ より高精度な回答が得られる「Copilot agents」と、ファイル管理に役立つ「Copilot in OneDrive」 組織が持つデータを元に情報が得られる独自のAIチャットを作成可能な「Copilot agents」という機能も新たに登場した。競合サービスで言うとGoogleのNotebookLMがイメージとしては近い。 Copilot agentsではSharePointで管理しているものをデータソースとして選択でき、そのデータに含まれる情報のみを使ってユーザーに回答するため、他の余計な情報が紛れ込まず、適切な回答を得やすくなる。組織内で定義された権限に基づいて処理されるため、セキュリティ面でも安心とのこと。 OneDriveでは、「Copilot in OneDrive」としてファイル管理に関わる機能が追加されている。ファイル選択後、Copilotのメニューから「要約してください」や「ファイルを比較する」という項目を選ぶと、そのファイル内容の要約を表示したり、複数のファイル間で異なっている部分が分かるように概要表示したりする。 ファイル名に日付やバージョンを入れて管理していても、チームメンバーがそれぞれ編集するためにどれが本当の最新版か分からなくなる、といった悩みもあるだろう。Copilot in OneDriveの機能を活用すれば、そんな悩みから解放され、余計な手戻りなどのトラブルも防止できるはずだ。 ■ 今後の継続的なMicrosoft 365の進化にも期待 2024年後半にはメールの分析や作成を効率化する「Copilot in Outlook」の実装が予定されており、以降もMicrosoft 365 Copilotの継続的なアップデートが見込まれる。サブスク契約が必要なサービスではあるが、生産性向上を図りたいのであれば、検討の価値は大いにあるだろう。
PC Watch,日沼 諭史