審判のプロのキャンプに潜入「プレミアリーグ流」を伝授…イングランドからイングランド氏が来た
レフェリー。サッカーにおいて、目立つことはほとんどない存在。取り上げられれるのは、もっぱら誤った判断をしたとき…。そんな彼らの中に、わずか19人の「プロフェッショナル」が存在している。 日本全国には27万1809人の審判がいる(23年度)。小中学生の公式戦などを担当する「4級」から始まり、Jリーグを担当することができる「1級」はわずか211人。さらにその中でも「プロフェッショナル・レフェリー(PR)」と呼ばれる審判のプロがいる。その数、主審14人、副審5人のみ。 今回、精鋭集団が集うトレーニングキャンプに潜入。そこには「プレミア流」が取り入れられていた。 ◇ ◇ ◇ 6月19日午後1時、千葉市内のJFA夢フィールド。同日行われたJ1横浜-広島担当の3名を除く16人のPRが、会議室に集った。 いつものピッチを離れ、行われたのは「座学」。Jリーグの中継映像を用いながら、4グループに分かれてディスカッション。この判定は正しかったのか? 自分ならどう判定するのか? 20以上のシーンを切り取り、主審、副審が混ざりながら意見交換を行った 「このファウルは本当はカードは出したくなかった。ただ、副審の『イエロー!』の助言があって出した」(6月2日のJ1第17節、ユニホームを引っ張ってのファウルでイエローカードを提示)。 「勢いよく行っていたが(スライディングで)ボールを止めたのが(イエローを出す)判断を鈍らせた」(6月16日のJ1第18節、ドリブル突破を試みた相手をスライディングで止めた選手へカードなし)。 それぞれ、実際にJリーグで笛を吹いた主審の声だ。試合後、監督や選手から判定へのコメントが出ることは多い。しかし審判には弁明の機会が与えられない。ジャッジの判断過程を明かせない彼らなりの苦悩が垣間見えた。 そして、このキャンプには“特別ゲスト”が参加した。ダレン・イングランド氏。イングランド・プレミアリーグで12年から副審を担当。20年から主審として57試合を裁いた。名前がややこしいが、イングランドから来日しているイングランドさんである。 なぜ、プレミアリーグの審判が日本にいるのか。JFAは「審判員交流研修プログラム」としてアメリカ、ドイツ、ポーランドなどから審判員を招待。Jリーグ、天皇杯などの国内戦を担当してもらい、海外の審判と意見交換する機会を設けている。 イングランド氏は6月15日のJ1第18節C大阪-浦和の主審を担当。この日は、その試合の映像も用いて議論が行われた。 例えば、前半32分。C大阪MF田中が浦和FWチアゴ・サンタナにスライディングをしたシーン。 ファウルでノーカードとした理由を、本人が解説した。 「チームワークを示すいいサンプルになった。まだ日本のライン(基準)がまだはっきりしなかった。イエローかどうか仲間に聞いて(カードなしと判断した)」 続けて、試合のマネジメント方法も解説。田中へカードは提示せず、注意をして場を収めた。 「ゆっくり歩いて、(田中が自陣へ戻る)進路に入ってそこで話をする」 場合によっては、呼びつけて厳しく注意することもあるというが、時間帯や選手に応じて使い分けて欲しい、とした。 また、後半15分のシーン。浦和DF佐藤がドリブル中に足を滑らせ転倒。C大阪FWカピシャーバに勢いよく突っ込んだ。しかしC大阪がカウンターを仕掛けたため、アドバンテージ(ファウルがあるが、プレーを止めない判断)をした。 「スリップによるアクシデンタルな接触と判断した。カウンターアタックのアドバンテージと判断した。最初の10メートルを大事にしないとと思い、走りだした。そこで一気に距離を縮めるんだ」。具体的なシーンを用いた解説に、PRも熱心に聞き入っていた。 ただ、その内容は実にシンプルだった。選手とのコミュニケーションを密に取る。プレー中のボールとの距離感や角度にこだわる。「世界最高峰」とされるプレミアリーグを裁く審判も、特別なトレーニングをしているわけではない。意識を少し変えるだけで、見えるものが劇的に変わると説いた。 今後も、メキシコやカタールから審判団が来日予定。いろいろな国の基準を取り入れ、さらなる日本の審判の質向上に期待したい。【飯岡大暉】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)