Keishi Tanaka「月と眠る」#21 雨も悪くない
Keishi Tanaka「月と眠る」#21 雨も悪くない
ランドネ本誌で連載を続けるミュージシャンのKeishi Tanakaさん。2019年春から、連載のシーズン2として「月と眠る」をスタート。ここでは誌面には載らなかった当日のようすを、本人の言葉と写真でお届けします。 Keishi Tanakaの「月と眠る」 記事一覧を見る。 Keishi Tanakaさんの連載が掲載されている最新号は、こちら! >>>『ランドネNo。125 11月号』。
雨も悪くない
「雨も悪くない」というと、強がりに聞こえる人もいるかもしれない。実際、使っている人の心の奥にも、思い当たる節があるだろう。「そりゃ晴れてるにこしたことはない」のである。でも、その言葉を言えるかどうかがじつは結構大事なのではないか、というのが、今回のランドネ誌面に書いた話。強がりから始まる、ちょっと良い気分の作り方の話。 6月15日に「雨」という新曲をリリースした。この連載の本文で、ここまでしっかりとした告知の一文は初めてなのではないだろうか。せっかくなので、ぜひ聴いてみてほしい。 Keishi Tanaka | 雨 。 そして、今回のキャンプは6月14日から15日にかけて行っている。つまり、キャンプ場での深夜0時に、リリースのその瞬間を迎えたということになる。今年はソロ活動を始めて10年の年で、さらにいうとその前のRiddim Saunter時代も含めて、約20年で初めての出来事だ。 設営を最短で済ませ、タープの下でひと息。雨の音を聞きながら、さて今日は何をしようかと考える。結局はその考えている時間自体が好きだったりもする。 じつはこのキャンプは仲間と2人で計画していたもので、予定が合う日がこの日しかなく、先にも書いた通りリリース前日から当日にかけての2日間になったわけだが、結果的にプロモーションの仕事が入ることもなく、無事に敢行されたというわけだ。 「雨」という名前の曲を書き、その曲が世に生み落とされるその瞬間に、雨降るキャンプ場にいるなんて、なかなかあるシチュエーションではない。インスタライブの生配信で、この瞬間を共有しようと決めたのは、夕方のこのくらいの時間だったと思う。 さすがに得意のお座敷スタイルもできないくらいに地面がぬかるんでいた。それでも雨だとわかっていれば、そんなに辛いものにはならない雨キャンプ。晴れたほうが良いことは間違いないが、炎天下で焚き火をすることがきつい日と、雨がしとしと降るくらいの日だと、僕の場合は良い勝負になるかもしれない。 翌朝が晴れて、撤収までにテントが乾いてくれるのであれば、しとしと雨に軍配があがるだろう。 夕食は前日に滞在していた兵庫県豊岡市の道の駅で購入した鹿肉の串焼き。キャンプの予定が近々あるという時期は、ツアーなどで訪れた全国の美味しそうなものを、そういう目で見ている。小さな楽しみを見つけることが継続につながるのだ。 お腹を満たし、お酒も入って良い気分。この日は雨のために人気のキャンプ場もスカスカ状態。周りに人がいなかったこともあり、夜な夜なしゃべっていても大丈夫な環境。何よりも雨の音が一番大きい。23時前にスマホのカメラを使ってインスタライブをスタートした。 当初の予定では、雨の音をBGMに、映像は焚き火で、副音声的に声を入れようかと考えていた。そういうYouTubeが意外と人気ということを知っていたからだ。しかし、いざやってみるとカメラの前に座っていた。どうやら出たがりな気持ちが湧き上がるくらいには酔っていたようだ(笑)。 内容は細かく覚えていないし、ここで書くようなことでもないので割愛するが、配信では新曲「雨」の話を少ししたあとは、一緒にキャンプを楽しむような時間になったのではないかと思っている。またやっても良いなと思えている。楽しかった証拠だろう。 雨が降っていたら、ただそれを嘆くだけではなく、じゃあどうするのかを考える。雨の日の良いところを探す。雨の音も静かさも両方を楽しむ。雨の日の「雨」を楽しむ。 そして、雨で練習したことを、雨じゃないものにも置き換えられるようになったら、人生はもっと楽しくなるのではないだろうか。僕はそう思っている。