遠藤章さん死去 幾多の危機を乗り越え奇跡の「新薬スタチン」開発
5日に90歳で死去した東京農工大特別栄誉教授の遠藤章さん。その道のりは困難の連続だった。「動脈硬化のペニシリン」と呼ばれる画期的な新薬スタチンは、幾多の危機を乗り越えた末に奇跡的に誕生した。 【写真】「世界で一番売れている薬」を開発した遠藤章さん ■6千株からコンパクチンを発見 大手製薬会社、三共(現第一三共)の研究員だった遠藤さんが、コレステロールの血中濃度を下げる物質「スタチン」の一種、コンパクチンを青カビから発見したのは昭和48年。6千株もの微生物を調べ、見つけ出した新規物質だ。 世界初の実用化を目指して開発がスタート。ところがラットを使って実験すると、なぜか血中コレステロール値が全く下がらない。当時の新薬開発では「ラットで効かないものは人間にも効かない」が常識。プロジェクトは早くも暗礁に乗り上げた。 苦労して見つけた物質を簡単に諦めるわけにはいかない。その後の分析で、ラットで効かない原因は分かったが、開発を続けるには別の動物で効果を証明しなければならない。どうすればいいのか途方に暮れた。 ■劇的効果も臨床試験中止 51年1月。会社から帰る途中、国鉄(当時)山手線の大崎駅近くの小料理屋に立ち寄った。そこで偶然出会った獣医師から、動物薬の試験で使ったニワトリが殺処分されていることを聞いた。 ニワトリの卵には、コレステロールがたくさん含まれている。卵を産む雌鶏の血中には余分なコレステロールがあるに違いない。「処分する前にコンパクチンを投与してほしい」。わらをもつかむ思いで頼み込んだ。 結果は劇的だった。コレステロール値は1カ月で半分に低下。さらにイヌでも大幅な低下が確認され、死に体だった開発プロジェクトは息を吹き返した。 だが翌年、今度は肝臓に対する毒性の疑いが浮上。再び開発中止の危機に直面した。そのころ大阪大の医師から1本の電話が入った。重度の家族性コレステロール血症の女性(19)=当時=が心臓発作を頻発しており、コンパクチンを使いたいとの申し出だった。 ほかに治療法はなく危険な状態だったため、医師の判断で投与に踏み切った。開発チームにとっては最後のチャンスでもあった。するとコレステロール値は劇的に低下。有効性が確認され、ようやく53年に正式な臨床試験が始まった。
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