「大の大人が涙を流すほど本気で取り組むその熱量をぜひ見てほしい」元エイジェックコーチ・小林雅英氏が語る社会人野球
現役時代、通算228セーブを記録するなど、主に千葉ロッテマリーンズの守護神で活躍し『幕張の防波堤』の異名をとった小林雅英氏。2021年3月からはエイジェック野球部・投手総合コーチに就任。プロ入り前は社会人野球の古豪・東京ガスでプレーしており、20数年ぶりの社会人野球界に復帰となった。 【写真】エイジェック・金城乃亜投手 小林コーチ就任後、エイジェックは、2021年11月の都市対抗野球に初出場を果たすと、2023年には日本選手権にも初出場。さらに今年、2度目の都市対抗野球大会出場で“都市対抗初勝利”。抱負な経験を元にした熱い指導により、エイジェック野球部の躍進を支え、2024年9月に退任した。ここでは、小林コーチに改めて社会人野球について聞いた。 ◆一発勝負のトーナメントが醍醐味 ―― 現役時代も社会人野球の東京ガスでプレーした小林さんですが、社会人野球の魅力はどんなところにあるとお考えですか? 「社会人野球には大きく分けて二種類の選手がいます。NPBという目標のために社会人野球に入る選手と、『都市対抗野球大会』『日本選手権大会』という社会人野球の二大大会で活躍したいとか、JAPANで活躍したい、“ミスター社会人”になりたいというような選手です。それぞれ、目標が違う選手もいる中で、やはり社会人野球で戦う上で、この二大大会の目標に対して、熱量を持って、ひとつになって戦うというところが魅力だと思っています。一発勝負のトーナメントで、30代の選手たちが本気で試合に臨み、負けたら涙を流して悔しがる……。そんなスポーツは、なかなかないと思います。大の大人が涙を流すほど本気で取り組むその熱量をぜひ見てほしいですね」 ―― 東京ガスでプレーして以来、エイジェック投手総合コーチとして、23年ぶりに社会人野球に携わることになりました。当時とは社会も変わっていますが、“エイジェック”という会社のイメージはどのようなものですか? 「企業チームが年々減少する中で、中学生、女子、独立リーグ、社会人野球と、いろいろなカテゴリーで野球ができる環境をつくっている会社、というイメージです。野球選手としては素晴らしい取り組みだと思っています」 ―― エイジェックは社会人野球で最も部員数の多いチームとして注目を集めました。指導する際に気をつけていたことなどはありますか? 「昨年までは、投手陣が15名前後と、NPBの一軍と変わらない人数だったので、目の配り方などを大きく変えることはありませんでした。ただ、今年からは人数が増えたので、大和田コーチと連携し、『選手にどんな声をかけた』など、指導内容を共有しながら見るようにしていましたね。大和田コーチは選手とコーチという立場で接していたこともあるので、ある程度選手の見方を共有しながら見ることができました。ただそれでも同じ選手を複数のコーチが同じ目線で見る、ということが難しかったですね。せっかく投手陣を2人のコーチで見るので、お互いに意見を出し合ったり、先ほども出たどんなアドバイスをしたかなど共有したりしました。また、ピッチングの技術を伝えることは、選手がどう受け取るかによって異なるので、難しいことだと思っています。選手によっては、同じ内容を伝える場合でも、伝え方を変えるよう心がけていましたね」 ―― 退任の際に「野球を様々な角度から見た」とありましたが、具体的にはどのようにご覧になられていたのでしょうか? 「プロ野球と社会人野球は一試合に対するアプローチが違います。プロは半年間毎日のように試合が行われるので、ローテーションや、球数を管理したり、長期間戦い続けるアプローチをしています。それに対して、社会人野球は、チームを代表して投げる何人かのピッチャーが大会期間の1週間、ベストな状態で投げられるようにすることが大事です。このように、同じピッチングコーチという仕事でも、リーグ戦とトーナメント戦では、選手の起用やコンディショニング管理が全く違うので、その面で、さまざまな角度から見たという表現になりました」 ―― エイジェックで4シーズン過ごされましたが、印象に残った選手やシーンなどはありましたか? 「一番印象に残っている試合は、チームに合流してすぐのJABA富山大会です。エイジェックがJABA大会を初めて優勝した大会だったらしいですが、劣勢を跳ね返せるチームなんだと感じましたね。普段の練習とは違った選手たちの姿を見ることができて、印象に残っています。印象に残った選手は、挙げるとすれば、金城(乃亜)と安藤(幸太郎)の二人ですね。ゲーム中に相手をどう打ち取るかを考えながらマウンドでパフォーマンスができる投手でした。彼らが入部した頃は、創部して間もない時期でしたので、どうしても粗削りな部分のある選手たちでした。特にここ2年ぐらいで大きく成長しました。その理由はやはり、野球への取り組み方が良いからこそ、社会人でも成長を続けられるということなのだと思います」 ―― コーチ退任後はどのように野球に関わっていかれるのでしょうか? 「50歳まで、昭和、平成、令和と3つの時代で野球に関わってきました。今すぐにというわけではありませんが、どこかからお話があれば再び指導に関わりたいと思っています。今の時代は、『コンプライアンス』という言葉で簡単に片付けられている中に、大事なことがあるはずです。先人たちが築いてきた野球は、もちろん全てが正解でないですし、悪いこともたくさんありますが、昭和や平成の『良い部分』を合わせた野球観を伝えていきたいなと思っています。技術的なところでは、野球を上手くなることの楽しさ、マウンドから打者をコントロールして打ち取ることの面白さを伝えたいです」 【プロフィール】 小林雅英(こばやし・まさひで) 1974年5月24日生まれ/山梨県大月市出身都留高(1989-1992)-日本体育大(1993-1996)-東京ガス(1997-1998)-ロッテ (1999-2007)-クリーブランド・インディアンス(2008-2009)-巨人(2010)-オリックス (2011) 現役引退 指導歴:オリックス二軍投手コーチ等(2012-2014)-ロッテ一軍投手コーチ等(2015-2018)-日本女子プロ野球リーグ投手総合コーチ(2019)-エイジェック投手総合コーチ(2021-2024)
アスリートマガジン編集部