「英雄の死はかくあるべき」 ガザ住民、ハマス最高指導者シンワル氏悼む
Nidal al-Mughrabi [カイロ 18日 ロイター] - あるガザ地区在住の父親にとって、イスラム組織ハマスの最高指導者シンワル氏が最期まで戦い、棒でドローンを撃退しようとしながら死亡したことは「英雄らしい死に方」だった。シンワル氏がイスラエルと戦争を起こしたせいで、壊滅的な犠牲が出たことを嘆く人もいるが、ほかの人々にとっては未来の世代への模範だ。 シンワル氏は、紛争のきっかけとなった2023年10月7日のイスラエル奇襲の立案者。イスラエルによる1年におよぶ追跡の末、10月16日に同国軍との銃撃戦で死亡したことが、翌日に発表された。 砲弾で破壊されたアパートの部屋で、マスクを着け負傷したシンワル氏が、自分を撮影しているドローンにこん棒を投げつけようとしている最期の数分間の映像は、パレスチナ人に誇りを与えた。 ハマスは同氏の死を悼む声明で「彼は逃げるのではなく攻撃し、ライフルを握りしめ、最前線で占領軍と戦い、英雄として亡くなった」と述べた。 さらに、イスラエルとの停戦合意の条件において妥協するつもりはないと付け加えた。 2児の父親であるガザ住民のアデル・ラジャブさん(60)はこう話す。「シンワル氏は軍用ベストを着て、ライフルと手りゅう弾で戦い、負傷して血を流しながらもこん棒で戦って死んだ。英雄とはこういうふうに死ぬものだ」 30歳のタクシー運転手アリさんは「昨夜からあの動画を30回見たが、これより立派な死に方はない」と述べた。「この動画を息子、そして将来は孫に毎日見せるつもりだ」 シンワル氏は生前の演説で、心臓発作や交通事故で死ぬよりはイスラエルの手にかかって死んだほうがましだと述べており、その言葉はパレスチナ人によってネット上で繰り返し共有されている。 「敵と占領軍が私に与えてくれる最高の贈り物は、彼らに暗殺され殉教者となることだ」と彼は語っていた。 <ハマスの採用活動に貢献も> パレスチナ人の中には、シンワル氏の望み通りの最期が動画として公開されたことで、ハマスに志願する人が増える結果となり、イスラエルは彼の殺害を後悔するのではないかと考えている人もいる。 「イスラエルは、シンワル氏がトンネルに隠れていると主張していた。自分の命を守るために、イスラエル人捕虜をそばに置いていたと。昨日は、5月からイスラエル軍が活動しているラファで、彼がイスラエル兵を追い詰めているのを見た」と、4人の子供の母親であるラシャさん(42)は言った。 「指導者とは、ライフルを手にして進むものだ。私はシンワル氏を指導者として支持していたが、いまは殉教者として誇りに思う」 9月の世論調査では、 ガザ住民の大多数が10月7日の奇襲を「誤った決定だった」と考えていることが分かった。パレスチナ人の間では、この戦争を始めたシンワル氏の意志に疑問を抱く人が増えている。 シンワル氏の死を英雄的だと称賛したラジャブさんは、パレスチナ人はイスラエルとの全面戦争に備えていなかったと考え、10月の奇襲を支持していない。ただ、彼の死に方は「パレスチナ人として誇らしい」と語った。 ヨルダン川西岸の紛争地帯ヘブロンに住むアラー・ハシャルムーンさんは、シンワル氏を殺害しても、より融和的な指導者が誕生するわけではないと述べた。「誰が死んでも、より強硬な人物が後任になると私は理解している」と言う。 ラマラ住民のムラド・オマルさん(54)は、現地への影響はほとんどないだろうと話した。「戦争は続くだろうし、すぐに終わるようには思えない」