モーリーが解説。グローバリズムを利用したロシア・中国、グローバリズムに夢を見た欧米
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、グローバリズムによる経済の相互依存をロシアや中国が「利用」している現状について考察する。 * * * 近年、多くの先進国で起きているポピュリズムの台頭には、グローバリズムが深く関係しています。 東西冷戦終結後、「勝利」に沸く資本主義陣営の主導で1995年に発足したWTO(世界貿易機関)は、国際経済の"相互依存"を促進しました。先進国は新興国の資源や人材を安く利用し、新興国はその構造において成長し、徐々に中産階級を形成していく――そんなイメージです。 欧米を中心とする西側諸国は、「遅れた国」も経済的に潤えばやがて「正しい民主化」へ向かうだろう......と、ナイーブな上から目線の期待を抱き、自分たちに都合のいいルールを敷いたつもりだった。しかし、WTOに2001年に加入した中国、2012年に加入したロシアの振る舞いが、この"相互依存"が内包する矛盾を拡大させていきます。 オブラートに包まず言えば、中露は資本主義の宿痾(しゅくあ)――どこかに搾取や犠牲を必要とする構造的問題――を引き受ける"下請け"の役回りを押しつけられていることに、早い段階から気づいていたでしょう。そこで、資本主義の恩恵を受けながらも、粛々と独裁的な政治体制を強化した。 そして、中国は製造拠点・巨大市場として、ロシアはエネルギー供給国として、西側諸国と関係がズブズブになるのを待ち、満を持して強く揺さぶりをかけていったわけです。中国は急ピッチでの軍拡を背景に周辺国への圧力を強め、ロシアはウクライナに武力侵攻を行なっている。 その一方で、先進国の内部では産業が空洞化し、中間層が没落し、表面化・先鋭化した社会の分断をポピュリズムが扇動している。そしてまた、その不安定化をロシアや中国が利用する――。グローバリズムが期待した「相互依存による平和」は、今や絵空事にしか見えません。 もっとも、すべてが中露の思惑どおりというわけではありません。ロシアはエネルギー資源を"兵器化"するところまでは成功しましたが、ウクライナ侵攻で孤立し、国内経済が危険水域に達しています。この状態が続けば、なんとか覆い隠していた"戦争のにおい"が都市部の市民にまで伝わり、体制を揺るがすことになりかねません。 中国にしても、統制経済下での成長に陰りが見え、習近平体制の経済政策の失敗が社会の暗部を浮き彫りにしつつあります。社会的に追い詰められた人々による無差別殺傷事件の頻発もその表れでしょう。警戒を強めた当局は、「五失員」と呼ばれる"負け組"の人々を犯罪者予備軍として監視するよう地方政府に指示したといわれていますが、そんなことをすれば弱者の怒りやフラストレーションは危険な形でますます蓄積するでしょう。 しかも、いくら共産党独裁体制といえど、都市部の漢族に対しては、新疆ウイグル自治区の治安当局が行なっているような手荒な対応ができるはずもありません。体制維持の困難さは今後ますます表面化していくでしょう。 相互依存に夢を見た側でも、それを利用している側でも、社会不安が広がっている。豊かさを追い求めた結果がこれというのは、なんとも皮肉です。そろそろ"地球みんなで反省しようの会"でも開催しなければいけないような状況ですが、そんな呼びかけが起こるはずもなく、現実は進んでいくばかりです。