ベテラン・石田衣良が新人・井上先斗に教える実践的サバイバル術!「作家として生き残っていくために」
シリーズ作品の作り方
井上 『池袋ウエストゲートパーク』は応募原稿の時点でシリーズにしようという考えはあったんですか? 石田 実はあった。マコトとタカシを書いていて、これは新しい世界を作り出したんじゃないかって手応えがあったから。 井上 なるほど……『イッツ・ダ・ボム』はシリーズ化前提で書いてないんですけども、インタビューを受けると「続編とかないんですか」と聞かれるんです。石田さんは、もともとシリーズにするつもりはなかったけど続編を書いた作品はありますか。 石田 『娼年』かな。映像化の話も来ていて、僕自身書いてて楽しかったんだよね。ホラーやエロティックな性愛小説って、テーマが決まっている分、作家の腕が試されるよね。 井上 シリーズを長く続ける秘訣として石田さんはよく「ピークを作らない」とおっしゃってますよね。 石田 シリーズ化で大事なことは2つあって、キャラクター造形が良いこと、「ピークを作らない」ことなんだよね。それって「日本そば」と似ている。日本そばって暫く経つとついつい食べたくなるじゃない? これは池波正太郎さんの「鬼平犯科帳」シリーズを読んで学んだことで、「安定して面白い」のが飽きない味を提供できるんだね。シリーズにはそれが最高だと思ったんだ。
小説作法について
井上 一問一答じゃないですけど、小説の書き方について、ここから幾つか質問させてください。石田さんは複数の作品を並行して書いたりすると思いますが、混乱しないように切り替えなどはどう意識されていますか? 石田 混乱することはないです。登場人物の名前がたまたま似て、慌てて直すみたいなことはあるけれど、作品自体のテーマやトーンが違うので、切り替えは簡単。小説ってカラオケだと思うんだよ。演歌のイントロが流れて、マイケル・ジャクソンは歌えないじゃん。 井上 執筆するときのルーティンや、書く前の儀式などはありますか?
石田 ルーティンは絶対に作らないっていうのがルーティン。「あの枕がないと眠れない」っていう人って、旅行ですごく苦労するじゃないですか。小説を書くときにルーティンを作ってしまうとダメだと思う。パソコンや原稿用紙に向かった瞬間に書き出せるのが最高です。 井上 物語の構想はどう練られていますか。僕は書く前にストーリーの流れと登場人物それぞれのプロフィールを細部まで詰め切ってから書いていくんですけど。 石田 僕も書き始めた頃は、脚本のもとになる「箱書き」を作っていました。紙に3つくらい箱(ブロック)を書いて、それにシーンの流れを大まかに書いていく。今も短編を書くときは、箱を3つか4つ作ったりします。 井上 細かいところまで決めるってわけではないんですね。それはやはり想像力を働かせるためですか。 石田 いくつかのイメージを持ちつつ、ストーリーを決め切らないで書いた方が自分自身も楽しいからね。『池袋ウエストゲートパーク』だって、今、井上さんから3つくらいお題をもらったら、それで書けるよ(笑)。