ベテラン・石田衣良が新人・井上先斗に教える実践的サバイバル術!「作家として生き残っていくために」
井上 『ブルース・ブラザーズ』ですね。 石田 お洒落すぎるな(笑)。 井上 では、『ダーティハリー』とか。 石田 それだ! 井上さんのセンスがいいのはもう分かっているので、次は日本を舞台にして『ダーティハリー』を書いてみるといいんじゃないかな。 井上 刑事の出てくるエンタメに挑戦しろってことですか? 石田 戦略的なことは何も考えなくていい。『ダーティハリー』の面白い箇所だけ小説に引っ張ってくればいいの。キャラクターを変えて書いていくうちに自然と自分の世界になるから。あとは、日本的な抒情を入れることですね。先ほど好きと言っていた松本清張作品だったら、『砂の器』の北風の吹く海辺を親子が歩くシーンみたいな、ああいう絵を1枚見つけて、それを『ダーティハリー』のかっこいい世界の中に溶け込ませる。作品と読者との間に接点を作っていく。これもひとつのエンタメ小説の作り方かな。
IWGPとの出会いから
井上 『4TEEN』を中学生の頃に読んだのが石田衣良作品との出会いです。ドラマ版『池袋ウエストゲートパーク』を母親が観ていた記憶はあって、『4TEEN』の著者プロフィールを見て石田さんってあれの原作者だったんだって知って、小説版を読んでみたら面白かった。そのあとドラマ版も含め後追いで嵌っていきました。 石田 小説もドラマも両方楽しんでもらえてうれしいな。 井上 今回、作中で池袋を出すときに西口は意図的に避けて東口にしました(笑)。石田さんは、デビュー作である『池袋ウエストゲートパーク』がミステリーとして高く評価されたあとの第一長編が『うつくしい子ども』で、クライムストーリー。けれど、その次の『エンジェル』は謎解き要素もあるファンタジー。そして『娼年』でミステリーらしさのない完全な恋愛小説をお書きになります。デビュー作とは全然違うジャンルを書くことに対して不安はなかったんですか?
石田 実は『池袋ウエストゲートパーク』ってドラマがヒットするまで、全然売れなかったの。デビュー作に手応えがなかったから、不安じゃなかったというのが本音だよね。『池袋ウエストゲートパーク』が最初からベストセラーになってたら、似たものをもっと書かないといけないって思いに駆られてたと思う。当時の担当編集者からは、「恋愛小説を書くのはまだ先でいい」って言われたんだけど、僕は割と飽きっぽいところがあるから、ずっと同じものを書いて腕を上げていくみたいなのが性に合わなかったんだよね。井上さんもどこかの段階で、違ったものを書きたいときがくると思うんで、それは今から持ってた方がいいんじゃない?