期待以上か、裏切りか… 明暗分かれた12球団「2023年ドラ1選手」のシーズン1年目を振り返る
来シーズンの活躍に期待
続いて、高卒ドラ1を見ていこう。ソフトバンクの左腕、前田悠伍(大阪桐蔭出身)とオリックスの内野手、横山聖哉(上田西出身)は、上々のスタートを切った。 前田は5月に二軍で先発デビューを果たすと、12試合に登板して4勝1敗1セーブ、防御率1.94をマークしている。横山はチーム2位の330打席(打率.223)に立つなど、実戦経験を積んだ。ともに早くも一軍デビューを飾り、素材の良さを十分アピールできた。 残りの6人は、悔しい1年目となった。2球団が競合した、広島の右腕、常広羽也斗(青山学院大出身)はキャンプからなかなか調子が上がらず、シーズン序盤は二軍でも打ち込まれる試合が目立った。ようやく夏場に本来の勢いを取り戻し、一軍で初先発初勝利を飾った。この1勝を自信にして、来年は開幕からローテーション入りを目指したい。 日本ハムの左腕、細野晴希(東洋大出身)も一軍で2試合に先発して、まずまずの投球を見せた。だが、7月に左肩を痛めて長期離脱を余儀なくされ、1年を通じて多くのイニングを投げられなかった。10月から開幕したフェニックスリーグでは、既に回復した姿を見せており、来年は、1年を通じて投げられるコンディション調整が重要になる。 野手で、期待の高かったのは、ロッテの内野手・上田希由翔(明治大出身)。開幕早々に一軍デビューを果たしたが、プロの投手に歯が立たず、21試合で15安打、本塁打は0本に終わった。 二軍では、70試合に出場して打率.291とまずまずの成績は残している。しかしながら、本塁打はわずか2本。ロッテが所属するイースタン・リーグは狭い球場が多く、本塁打2本とは物足りない数字だ。ロッテは日本人の強打者タイプを必要としている。来年は、長打力に磨きをかけたい。
入団1年目でトミー・ジョン手術
ほとんど活躍できず、苦しいルーキーイヤーとなった投手がいる。トミー・ジョン手術を受けた中日の草加勝(亜細亜大出身)、阪神の下村海翔(青山学院大出身)、ヤクルトの西舘昂汰(専修大出身)という3人の右腕だ。 「大学時代に投げ過ぎていたのではないか」 「故障のリスクを見逃した指名球団に“落ち度”があるのではないか」 ファンからはこうした批判の声も出ている。しかしながら、セ・リーグ球団のスカウトは「これは単純な話ではない。非常に難しい問題だ」と指摘する。 「3人とも入団時に受けたメディカルチェックでは『問題なし』という診断だったと聞いています。大学時代に登板が多かったシーズンがありましたが、全員4年間フルに投げ続けてきたわけではない。最終学年でのパフォーマンスが最も良かったことは確かですけどね。球速が上がれば、肘への負担は大きい。これからも、今回のようなケースは増えてくると思います。プロ入り前に全ての問題をクリアにすることはできませんよ。入団して異常があったら早めに対応するしかありません」 トミー・ジョン手術は、メジャーでも日本でも受ける選手は多く、リハビリ期間中にトレーニングを積んでパフォーマンスが上がるケースが多い。今年は躓いた3人もまだまだプロ野球人生は長い。ここから復活して、来年以降見事なパフォーマンスを見せて頂きたい。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部
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