“ミスタードラゴンズ”立浪和義の中日監督起用から「ネームバリューで選んではいけない」と断言する、江本孟紀の考察
立浪監督になにを期待していたのか
かつて広島、西武、ダイエーで監督を務めた根本陸夫さんを例に挙げよう。根本さんがそれぞれのチームを率いた計11年間は、Aクラス(3位)が1回、4位が5回、5位が1回、最下位が4回と、まさにBクラスの常連だった。 ところが、根本さんの後を引き継いだ広島の古葉竹識さん、西武の広岡達朗さん、ダイエーの王貞治さんは、チームをリーグ優勝、日本一に導き、常勝チームへと育て上げている。 もちろん根本さんのしっかりした戦略があってのことだが、「将来チームの屋台骨を背負っていく選手を獲得して育て上げている間は、チーム成績が低迷するのは仕方がない」という割り切りがあったからこそ、3チームとも野球史に名を残すようなチームを作り上げることができたのだ。 今回のドラゴンズでいえば、立浪監督にどんな役割を期待したのか。 「3年以内に優勝してほしい」では、戦力的には人材が乏しいと言わざるを得ないし、「人気にあやかって、お客さんをたくさん呼んでほしい」というのであれば、どんなにチームの成績が悪くても、続投させたほうがよかったはずだ。 「3年以内にチームが優勝できるよう、いい選手を育て上げて、ドームにたくさんのお客さんを呼んでほしい」という矛盾交じりのノルマを突き付けたのだとしたら、責任のすべてを立浪監督に背負わせるのではなく、フロントにも落ち度がある。 にもかかわらず、ファンの非難の声に、「このままではイカン」と手を打った結果、退任してもらう方向で話を進めたのでは、この先、誰が監督をやっても同じような結果になるのは目に見えている。
江本さんが考える中日の打開策
だからこそ私は考える。 仮にフロントが、「今のチームは低迷している。この状況を打開する方法として、勝つためのプロセスを築き上げられる人を新監督に据えよう」と考えているのであれば、2~3年は低迷したって辛抱できるはずだ。 なぜなら監督に据えた意味が明快だし、そうした考えで選んだのであれば、「こうしてチームをよくしていこう」という信念が感じられる。ちょっとやそっとファンから非難されたって、動じる必要はない。 それさえできなかったということは、「立浪」というネームバリューにあやかって、「ファンがドームに大勢足を運んでくれるようになるだろう」という一方的な期待を膨らませただけだったからだ。 そして、「現役時代は素晴らしい選手だった。監督としてもきっと試合展開を読んだ采配をしてくれるだろうし、選手も育成してくれるだろう」と、あくまで願望にすぎないことを押しつけた結果ともいえる。 この先、ドラゴンズを強くしたいというのであれば、決して監督任せにしてはいけない。でなければ、同様の事態が再発する。 信念をもって、「こういうチームにしていくべきだ」という未来図を描く。そうすれば低迷していようとも、ファンの声にいちいち反応することは減ってくるんじゃないか。 江本孟紀 現在はプロ野球解説者として活動。ベストセラーとなった『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(ベストセラーズ)、『阪神タイガースぶっちゃけ話』(清談社Publico)をはじめ著書は80冊を超える
江本孟紀