日本人初のノーベル賞、物理学者の湯川秀樹は、家族の中で目立たない存在だった。親は子どもの希望を聞けても、進路を決めることはできない
文部科学省が発表した「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」によると、約6割が1ヵ月間で1冊も本を読まないそう。「自分の人生で経験できることには限りがあり、読書によって他者の人生を追体験することから学べることは多い」と語るのは、哲学者の岸見一郎先生。今回は、岸見先生が古今東西の本と珠玉の言葉を紹介します。岸見先生いわく、「親が子どもの人生の進路を決めることはできない」そうで――。 【書影】古今東西の本と珠玉の言葉を一挙に紹介。岸見一郎『悩める時の百冊百話-人生を救うあのセリフ、この思索』 * * * * * * * ◆目立たなくても 「目立たない子も、あるものです。目立つ子や、才気走った子が、すぐれた仕事をする人間になるというわけでは、 御座いますまい。かえって目立たないような人間が……」 (湯川秀樹『旅人』) 物理学者の湯川秀樹は、自分はあまり目立たない存在だったと自伝の中でいっている。 父親が、きょうだいの中で彼だけを違った道に進ませようとした時、母親は目立たなくてもすぐれた子どももいると再考を促した。 母親は子どもたちに不公平なことはしたくない。それに対し、父親はそれぞれの子どもにふさわしい道であれば、違う道を歩かせたところで、かえって公平といえるだろうといった。 好む者も好まない者も、それにふさわしい者もふさわしくない者も皆同じ道を歩かせるとしたら、それこそ悪平等ではないかと思い悩んだ。 父親は一中の校長森外三郎に相談した。普通に高校から大学に進ませるかそれとも専門学校に行かせるか。 〈「秀樹君はね、あの少年ほどの才能というものは、滅多にない」 「いやあ……」 「いや、待って下さい。私が、お世辞でも言うと思われるなら、私はあの子をもらってしまってもいいです」 「…………」〉 (前掲書) その後、湯川は旧制第三高等学校に進学した。
◆親が子どもの人生の進路を決めることはできない 学者になることだけが人生でないと親が考えるのは正しい。 両親のやりとり、父親と校長のやりとりを湯川は自伝の中で詳しく語っているが、この子どもをどうやって学校にやらせるか相談する親とカウンセラーのやりとりのようだと思ってしまった。 湯川自身はこのような話し合いがあったことを後になって教えられたのだろう。私も父が哲学を学ぶことに反対していたと母から知らされたことがある。 親が子どもの人生の進路を決めることはできない。