市場規模やインパクト評価では測れない「社会家起業家」支援の新しい形
立場や所属を越えて集まる同志
藤田:活動を始めてから6年間ぐらいはファンドがなかったんですね。その時は、投資についてはどうしていたんでしょうか? 原田:投資はしていませんでした。卒業した人たちを支援機関に繋ぐことはありましたが、そこまで投資やエコシステムを作る意識はあまりありませんでしたね。どちらかというと、社会課題解決の文脈でNPOもスタートアップも、ベンチャー企業も全部包括して支援するような形だったんです。 また、メディアも運営しています。創業当初からの取り組みですが、日本全国の社会起業家を200事例ほど取材させていただいています。この業界の課題は、社会課題をビジネスにする事例や、それをグロースさせるためのノウハウが全然市場に貯まっていないことだと考えているので、それを集めていこうとメディアを始めたのがきっかけです。 「この領域の社会起業家っていますか?」と結構聞かれますが、大体このメディアに載っています。このネットワークを持っていることは非常に強みがあるし、ネットワークを持っていることによって大手企業にもすぐにお繋ぎできています。 ■立場や所属を越えて集まる同志 社会に新しい価値を 原田:「Beyond」というカンファレンスを、2018年からこれまで8回開催しています。Beyondの言葉の通り、立場や所属、年齢を飛び越えて集まり、社会に新しい価値を提案するためのイベントです。 昨年度から目的を大きく変えました。社会課題解決の市場規模拡大を加速させるための場として、資金調達ができる場所と、大企業と行政との協業に繋がる場所を用意しています。昨年度はVCを7社ぐらい呼んで、実際に資金調達が決まりました。 2つ目の目的は、市場が小さい社会課題への取り組みに対する再分配を加速すること。社会課題解決をビジネスでやっていく際、小さい市場に対する格差は絶対的に大きくなっていくんですよね。ビジネスにならないからと放っておかれるような構造があってはならない。社会課題解決の市場規模拡大を加速させていきたい人たちに、市場が小さくてビジネスにするのが難しいけれど、それでも難しい課題に対して取り組んでいる素晴らしいNPOがあることを知っていただいて、そこに対する理解拡大と寄付に繋げていくことができたらいいなと思っています。 3つ目は、社会起業家支援の機運醸成。大企業で、社会課題解決の新規事業開発やオープンイノベーション、インパクト投資をやってみたいという方々がすごく多い一方で、財務リターンをどう出していくかがわからない。Beyondに、実際に財務リターンを出してトラックレコードを上げている社会起業家が集まるので、実際に見て解像度を上げていただこうと思っています。 ■市場の大小やインパクト評価では測れないところに目を向けて 藤田:社会起業家支援やファンド運営で大変なことは何ですか。 原田:市場をどれだけ拡大させていくかは非常に難しいと思っています。 市場が小さい領域ってありますよね。例えば、防災領域。常日頃災害が起こるわけでもないし、いつ起こるかわからないものに予算を常に使い続けることは、企業も自治体も予算計上がしにくい。そんな領域に対してアプローチするスタートアップは結構増えてきているものの、やっぱり市場の大きさでVCは見ますよね。市場の仮説が作りにくいことで、資金調達をしにくい領域があると思います。