「誰もが心の病気になり得るし、何回でもやり直せる」 2度のメンタル不調を経験した27歳男性が伝えたいこと
メンタルヘルス(心の健康)の不調に苦しんできた27歳の若者が、否定的なイメージを払拭するために自身の経験を伝えようと全国を行脚している。大学時代に発病したうつ病はいったん症状が落ち着いたものの、社会人2年目に再発。これを機に、生き方を見つめ直し、一念発起して仕事を辞して経験を語り始めた。筆者も過去にメンタル不調に苦しんだ経験があり、積極的に対外発信を続ける当事者の声を聞いてみたくて取材に出向いた。(共同通信=星野桂一郎) ※筆者が音声でも解説しています。各種アプリで、共同通信Podcast【きくリポ】で検索してお聴きください。→#56【きくリポ】2度のメンタル不調を経験した青年が今、伝えたいこと ▽漂白剤やシャンプーを飲んで…入院した学生時代 9月下旬、埼玉県志木市にある慶応志木高校の教室で、原匠さん=大阪府東大阪市=が、1年生約40人を前に切り出した。「過去に心の病が原因で死にかけてしまった。どん底の状態から、このように皆さんの前で話せるようになるまでの出来事を伝えたい」。原さんがこう話し始めると、当初ややざわついていた教室は静まり返り、生徒たちは話に引き込まれていった。
原さんはバスケットボールに情熱を注いできた。出身地の大阪府代表のキャプテンを務めたり、全国大会に出場したりするなど活躍した。そんな原さんが発症したのは、慶応大3年生の就職活動中のことだ。副キャプテンだったバスケットボール部での人間関係や、将来への不安が原因で眠れなくなり、漂白剤やシャンプーを飲んで自殺を試みた。 病院に運ばれた直後は、飲食もできずに点滴で栄養を補給する状態。体重は激減した。食事ができるようになって、いったん退院した後に、別の病院でうつ病と診断され、精神科病棟に1カ月弱、入院した。 その後、バスケットボール部に復帰。何とか卒業もして保険会社に就職した。 ▽入社2年目で再発、「このまま目を背けていたら…」 ところが、入社2年目、新型コロナウイルス禍で仕事の環境が激変する中、うつ病が再発して、休職を余儀なくされた。 実は最初にうつ病と診断された後、周囲に病気を打ち明けられず、病気については自らの記憶の片隅に押し込めていた。「悪い夢だったんだ。もう忘れてしまおう」。週1回の通院は数カ月続けていたが「友人や知人に姿を見られたくない」との思いからやめていたのだった。 だが、再び以前と同じ壁に直面して「このまま病気から目を背けていたら、残りの人生を前向きに生きられないのではないか」と自問した。