「誰もが心の病気になり得るし、何回でもやり直せる」 2度のメンタル不調を経験した27歳男性が伝えたいこと
初めてのメンタル不調に戸惑いながらも関連書を手探りでいくつか読み、多くの人が同様に苦しんでいることを知った。そんな中、手にした新聞で原さんの活動を伝える記事が目に留まった。筆者は家族や友人をはじめ、職場の先輩や産業医ら多くの人にたびたび相談にのってもらった。幼い子どもの育児をしながらも、徐々に生活のリズムを取り戻すことができた。 その後、トラブルが続いた就労環境を変えてもらい職場に復帰。短時間勤務などを経ながら仕事にも慣れていった。仕事が落ち着いたころに、改めて原さんの講演を直接聞いてみたいと思い、連絡を取った。すると心の病について啓発する10月10日の「世界メンタルヘルスデー」を前に、自宅のある大阪府から埼玉県に出向いて講演すると知らされ取材を申し込んだのだった。 ▽「大きな失敗」も「成長の糧に」 バレーボール元女子日本代表の大山加奈さん、2016年リオデジャネイロ五輪の競泳男子金メダリスト、萩野公介さんら著名人がメンタル不調をオープンにするなど、心の不調に対するイメージは近年、少しずつ変わりつつある。とはいえ、社会の否定的なイメージは根強く、周囲に打ち上けられずに1人で抱え込み、苦しむ人が少なくない。
原さんもその1人だった。当初は「二度と復調しないのでは」と思い込んでいたのだ。幸いにも、休職中に偶然、同じような不調を経験した地元の友人に悩みを聞いてもらうことで、立ち上がるきっかけをつかめたと言う。 講演では、そうした経緯を包み隠さずに話す。「死にたいと思った。死のうとしてしまった」「自分のおなかを痛めて僕を産んで、一生懸命育ててくれた母親を泣かせてしまった」「チームメートにも、とてつもなく心配をかけた」 そんな学生時代の「大きな失敗」が、今では「成長の糧」になったと思える。旅先で出会った人々に自らの経験を語り「すごく心が軽くなった」などと言われたのも自信につながった。 伝えたいのは「誰もが心の病気になり得るし、何回でもやり直せる」ということ。苦しい時には「そういえば昔、自転車に乗った変なお兄さんがいたなって思い出し、誰かに助けを求めてほしい」 ▽取材後記 筆者も不調を経験して思い悩んだ。そんな時に周囲に相談してよく言われたのは「仕事はほどほどに」との言葉。「仕事は誰かが交代できる。自分しかできないなんて決して思わない」。そんな言葉を聞いて気持ちが楽になったのを覚えている。
ただ、果たしてこの経験を通じていつか「成長」したと思えるようになるのだろうか。回復した今でも、体調に一抹の不安を覚える時がたまにあるし「不調に陥ってなければ」と考えてしまうこともある。 最近、意外な人たちから「実は私も…」「私の家族が…」と打ち明けられることが続いた。 そうした言葉を聞くと、不調に苦しむ人がいかに自分の周囲にも多いことに気付かされる。それと同時に、これまでは目を向けることが少なかった人々の苦しみに思いをはせている自分にも気付いた。同様の経験をして、少なくともメンタル不調を身近な問題として、とらえられるようになったのかもしれない。