INI木村柾哉が選ぶ究極の二択「人生最後の日はいちばん大切な人と二人で過ごします」
笑顔が似合う人だ。くしゃっと顔を綻ばせて笑う木村柾哉には、それだけで周りの心を吸い寄せる引力がある。 【全ての写真】INI木村柾哉の撮り下ろしカットほか(全12枚) だけど、スクリーンの中の彼はちょっと違う。笑っているのに、どこか笑っていない。どんなに周りが猫撫で声で近づいてきても、無下にはしないけど壁をつくっている。彼は、いつもちょっと寂しそうに笑っていた。 11月8日公開の映画『あたしの!』で木村が演じるのは、学校一の王子様・御共直己。関川あこ子と谷口充希。子どもの頃から親友だった二人は、共に直己に恋をしたことで、友情に不穏な影が射し込む。 ほとんど演技経験がない中、木村はどうやって直己と心を一つにしていったのだろうか。
「役者・木村柾哉」が産声を上げた瞬間
「僕の中での直己は、みんなに優しい人。誰に対しても分け隔てなく、逆に言うと当たり障りなく微笑みを振り撒いている。そんな直己が心から笑った相手が、あこ子なんだと思います」 ここから先は踏み込ませない。如才のない笑顔でガードしてきた直己の心模様を、木村はそう振り返る。留年した直己の世界に飛び込んできた、あこ子。感情表現がストレートで、何事にも猪突猛進なあこ子が、ぼんやりと色褪せていた直己の世界の彩度を上げていく。 「感情の起伏が大きくない直己にとって、あこ子はやることなすことすべてが予想外。だから、つい不意をつかれてツボに入っちゃう。そういう瞬間をいくつか積み重ねていくうちに、徐々にあこ子に対して打ち解けていったんだろうなとイメージしながら現場に入ったんですけど、あこ子役の渡邉(美穂)さんが本当にあこ子そのもので。あまり頭で考えすぎず、自然と僕も笑っちゃっていました」 映画初出演にして初主演。大役を前に「プレッシャーが大きすぎて、撮影前はものすごく緊張していた」と照れ臭そうに明かす。役になる、とはどういうことか。正解もわからないまま、無我夢中で駆け抜ける日々の中、その片鱗を掴んだ瞬間があった。 それが、クライマックスの涙のシーンだ。 「あの場面は、泣く演技にしようと思ってやったわけじゃないんです。だからテストでも別に泣いてはいなくて。本番でカメラが回って、渡邉さんのあのド直球な性格を目の当たりにしたら、気づいたら涙が出ていて。自分でもびっくりしました」 まだお芝居に慣れていない時期は、つい「こうしよう」という作為が前に出る。けれど、そうした自我を手放して、その場に心を委ねたとき、本物のリアクションが生まれる。初めての映画出演で、木村はその領域に足を踏み込んだ。 「直己は、過去にいろいろあった人。そのせいで、自分の気持ちを内に溜め込むようになっていた。それが、あこ子と出会って、自分のやりたいように生きようと振り切る第一歩の瞬間だったこともあって、自然と今までのことを思い出していたんです。そしたら、本当に涙が出てきて……」 もしかしたらそれは本当の意味での「役者・木村柾哉」が産声を上げた瞬間だったのかもしれない。カットがかかった瞬間、我に返った木村の前に、ほっこりするような景色が待っていた。 「見たら、監督が泣いていたんです。『今のすごい良かった!』って声をかけてくれて。自分の手応えよりも先に、まずそのことにびっくりしました。でも、うれしかったです。そうやって監督が喜んでくれたこともそうですし、役にのめりこむ瞬間というのを経験できて、僕もこういうことができるんだって、ちょっと自信になりました」