モスクワ・テロ事件の背景にある「SCOの近年の動き」
コロナ禍の間は信頼醸成ができず、ISのテロ行為を防ぐことができなかったSCO ~一方で各国がタリバンに手を差し伸べる背景も
中川)SCOが今回、機能を発揮せず止められなかったのは、コロナの影響が大きかったと思います。また印中対立の影響も大きく、サミットもしばらくの期間はオンライン開催になってしまった。2000年代初頭からSCOは毎回、サミットで顔を付き合わせて「どうしようか」と考えてきたのに、最も大事なこの期間にコロナでみんなが会えなくなり、信頼醸成ができずにいた。その意味ではリアルで会うべきなのですが、2023年の議長国がインドだったので、印中対立の影響もあり微妙な感じになっていたのが、ここ半年~1年の流れです。 飯田)タイミングが重なってしまったのですね。 中川)イスラム国とタリバンの対立関係が前提にあって、本来ならSCOはそれを防ぐ機構だったのに、機能していなかった。なおかつ、各国がタリバン側に手を差し伸べるような状況だったのが最近の構図だと思います。 飯田)もともとSCOはインテリジェンスを共有する組織なのですよね? 中川)基本的には反テロなので、「反テロのためのインテリジェンス共有を準軍事組織も使って行いましょう」ということが含まれており、決して経済連盟ではありません。 飯田)日本では経済面で報道されることが多いですよね。 中川)軍事や経済などではなく、「反テロ」が基本的なラインです。声明文を見ても、明らかに反テロの声明が多い。日本に伝わってくる文脈では、どうしても「中露の悪の枢軸連合」という感じですが、基本的には中央アジアを安定化させる反テロのための組織です。
2023年のSCOがインド開催であったため、コロナの影響もあって連携が外れてしまった
飯田)モスクワのテロ事件に関して、アメリカは事前に情報を掴んでおり、ロシアに対しても警告していたと言われています。ロシアにあるアメリカ大使館はアメリカ人に対し、退避などの警告をしていたそうです。SCOの中国やロシア側も情報としては取れていたけれど、共有できなかったのでしょうか? 中川)まさかロシアがウクライナのせいにしたいがために、黙認してあの事件を起こさせたわけではないと思いますが。 飯田)偽旗作戦のような。 中川)「国民の犠牲者を出してでも」という考えかどうかは流石にわかりません。2022年9月に対面で開催されたSCOのサミットでは、習近平国家主席とプーチン大統領がウズベキスタンでリアルに会っています。ここまでは、ある程度の情報を共有できていたのでしょうが、アフガンと各国との関係は2023年を転機に変わってきました。その意味では、2023年7月のSCOがインド開催だったので、そこで連携が外れ、インテリジェンス上の交流も途絶えたのかも知れません。この辺りでSCOを通じたロシアのインテリジェンス力が若干落ちていた可能性があります。