米百貨店“再編”が意味するもの サックス親会社によるニーマン・マーカスG買収【鈴木敏仁USリポート】
他社からの投資を受け入れてのデジタルのスピンオフなので、上場を視野に入れていたのかもしれない。
ここにベイカーの経営思想を垣間見ることができると思っている。伝統的な小売モデルではないのである。
ベイカー氏の経営者としての本質
ベイカーはショッピングセンターに投資するREITで頭角を現した人で、本質は商業不動産の投資家だ。2006年に傾いていたデパートメントストアのロード&テイラー(投資総額は12億ドル)を買収し小売業界に進出し、しかし再建できず2019年にルトート(Le Tote)に1億ドルで売却している。その後ロード&テイラーは清算された。
これが大失敗だったのか、または不動産できっちりリターンを得たのかは不明である。例えば買収後に小売と不動産を切り離し、不動産を売却しリターンを確保するという手段があるが、このあたりの情報は持ち合わせていない。発表時の買収価格より売値が低かったという案件が私の知る限りあと2つあり、ベイカーによる小売業界での投資履歴はとりあえず表面的には負けが続いている。
ちなみにハドソンズ・ベイは2008年、サックスは2013年に買収している。
ベイカーの動向を見ていて私が想起するのは破綻したシアーズとKマートを買収したエディ・ランパートなのである。ランパートは小売りの再建には興味がなく、不動産を切り売りして儲けて終わっている。破綻企業を底値で買って、優良不動産を少しずつ売り縮小均衡させながら資産価値をマックスにし続けて、どこかで出口を探すことを目指していたのだろうと理解している。
アセットアロケーションやポートフォリオ的な戦略思考である。
日本の小売業界誌は“業界再編“という言葉を好んで使うが、我々が普通に考える再編とは基本が異なっていると理解しておいた方が良い。不動産投資という視点でも見ていかねばならず、そう視点を変えると外野にいる私としてはとても興味深い案件なのである。