「紅麹」問題で傷ついたブランド 小林製薬の新戦略「ヘルスケアで成長路線」があだに
「紅麹(べにこうじ)」成分のサプリメントを摂取した人の健康被害問題を巡り、特別損失38億円を計上した小林製薬。紅麹事業に乗り出した背景には、低迷する日用品分野から、利益率の高いヘルスケア分野に軸足を移す成長戦略があった。健康被害と紅麹の関係はまだ解明されていないが、経験の浅い事業により、ブランドは大きく傷ついた。安全管理が十分だったかが問われる中、信頼回復までの道のりは遠い。 【一覧で見る】小林製薬の経営を支えてきたユニークな名前をつけた日用品や医薬品 「ユニークな案件は調査せず、スピード重視で開発に取り組んできた」 同社が1年間に創出した新製品のテーマ数は、令和2年を100としたときに5年に113まで増えたという。小林章浩社長は紅麹問題が発覚する前の今年2月、経営状況を説明する会見で、こう誇らしそうに述べた。 隠れたニーズをいち早くとらえた商品開発力は同社の強みだった。芳香剤「ブルーレットおくだけ」、発熱時の冷却シート「熱さまシート」など、コマーシャルでおなじみの商品は多い。 ただ、スピード重視の経営路線は近年、曲がり角を迎えていた。5年12月期連結決算では、売上高に対する営業利益率が14・9%で、平成29年12月期(14・6%)以来の低い水準だった。国内事業で37%を占める「日用品」分野の売上高は前期比0・3%減の490億円。日用品は新型コロナウイルス禍で買い控えが進んでいた。 一方、経営を牽引(けんいん)するようになっていたのが、国内事業比率の51%を占めるようになった医薬品やスキンケア、食品などの「ヘルスケア」分野で、7・6%増の670億円だった。利益率も高かった。 近年、同社はヘルスケア分野を伸ばす方針を進めていた。平成28年に下着大手のグンゼから譲渡を受けた紅麹事業にも期待をかけた。令和3年2月には、今回の自主回収対象となった機能性表示食品の「紅麹コレステヘルプ」を発売した。 そこに落とし穴があった。小林製薬は社名に「製薬」を冠するものの医師の処方箋が必要な医療用医薬品は扱わず、薬局で買える一般用医薬品を展開。口から体に入る薬や食品の経験が十分だったとはいいがたい。大阪の製薬企業幹部も「正直、同業だと意識したことはない」と話す。 紅麹菌を扱った経験もなかった。小林社長らは問題発覚後の今年3月の記者会見で「グンゼから技術をしっかり手順書として引き継いだ。技術者にも一緒に入社してもらい、(安全面は)大丈夫と認識していた」と説明した。しかし、国立医薬品食品衛生研究所の合田幸広名誉所長は「生き物である菌類を扱うには長い経験が必要で、工場や生産システムごと引き継がないといけない。食品事業を理解していないと言わざるを得ない」と指摘する。