日本のすべての高校に種まきを! 将来の感染症研究のために【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■日本全国のすべての高校に、G2P-Japanの本を寄贈します! 大谷選手によるグローブ寄贈の報道の直後のこと。幸運なことに、私が申請していた日本学術振興会が公募する「国際先導研究」という大型の研究費が採択された。この研究費が支援するのは国際共同研究の推進に加えて、「若手研究者の育成」(27話)。そう、この研究費があれば、この作戦に必要な費用は充分に捻出できるはずだ。 ――と、このような経緯で、私たちG2P-Japanの本『G2P-Japanの挑戦 コロナ禍を疾走した研究者たち』(日経サイエンス社)を、日本全国のすべての高等学校、および、中等教育学校(中高一貫)、計4979校に、1冊ずつ寄贈することを決めた。 これを思いついた後、私はまず、G2P-Japanのコアメンバーにこの案を相談した。全員の快諾を得た後、「国際先導研究」の担当者に、この案の実現可能性を確認した。「その本の配布をきっかけとして、この研究課題に参画する若手研究者たちが、感染症研究の重要さを高校生たちに伝えるための講演活動をするのであれば」、ということを条件に承諾を得た。 そして、日経サイエンス社にこの案を伝え、この作戦は現実のものとして動き始めた。私はこの本の著者のひとりであるが、この購入によって著者に1円も入らないよう、配布する4979冊の本は、「著者割引」という形で購入した。
この活動の意図は、大谷選手によるグローブ寄贈と同じ。つまりこれはすべて、感染症研究の大切さと面白さ、そして、「次のパンデミック」への備えの重要性を、若い人たちに伝えるためのものだ。 この本を全国の高校に配り、それをそれぞれの学校の図書室に並べてもらうことができれば、理論上すべての高校生がこの本を手に取る機会が生まれる。その中でもし、この本に描かれているウイルス学者たちのドラマに、心を躍らせる生徒さんが出てきてくれたら......。 少子化とはいえ、現在の日本全体での高校生の総数は1学年あたり約100万人。もし0.001%の生徒さんだけでもこの本に興味を持ってくれたら、1学年あたりその人数はなんと1000人にもなるのである。 今の中高生たちは、新型コロナパンデミックによってその青春の一部が奪われてしまった子どもたちである。パンデミックで情報が錯綜し、社会が混沌とする中で、科学に基づいた正しい情報をリアルタイムに社会に届けるために、死にものぐるいで奮闘を続けてきたウイルス学者たちがいたことを知ってもらえたら。そしてその姿に共感して、心を震わせてくれる生徒さんがひとりでも出てきてくれたら、それに勝る喜びはない。 ウイルス研究は大事だし、重要だし、ドラマに満ちている。大谷選手のグローブと同じように、これを機会に、ウイルス研究に興味を持ってくれる若者がひとりでも増えることを願ってやまない。 ――この想い、届け!! 文・写真/佐藤 佳
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