ヤマザキマリ 母から送られてきた雑誌で感受した「能登の耽美」を、40年後の旅で呼び覚まされて。復興に向けて「仕方ない、頑張らないと」と諦観する人々の表情に見たもの
◆表情の向こうに確固たる品格をみて 能登半島は1月の地震で大きな被害を被った。珠洲も多くの家屋が倒壊し、多くの方々が亡くなった。 先だって息子と一緒に再び「さか本」を訪れたが、敏腕の職人の手によって建てられた建造物は大きなダメージもなく、もともとインフラに依存せず湧水や薪を使ってきたその姿勢が吉と出たのか、宿は元気だった。 しかし、珠洲の街やその周辺には、震災時から時が止まってしまったかのような光景が広がっていた。 誰かにすがるだけでは前に進めないからと、自分たちで重機を購入し、自発的に動き出している住民たちもいた。復興への課題は山積みだが、それでも「仕方ない、頑張らないと」と諦観して笑う彼らの、その表情の向こうには、大きな困難と向き合いつつも損なわれることのない確固たる品格があった。 どんな状況下であろうと、人としてのぶれない誇りに出会えるのが能登なのだと思った。
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