「リバプールより…」遠藤航がこだわる「小さな積み重ね」サッカー日本代表を支える6番の仕事術【アジアカップ2023コラム】
サッカー日本代表は1月31日、AFCアジアカップカタール2023ラウンド16でバーレーン代表と対戦し、3-1で勝利した。この試合のプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたのは遠藤航。今大会でフルタイム出場している鉄人は、リバプールとの違いを感じつつも、アジアの戦いにアジャストしている。(取材・文:元川悦子【カタール】) 【アジア杯順位表・トーナメント表】AFCアジアカップ カタール2023
●リスクある采配とフル稼働の遠藤航 グループリーグは2勝1敗の2位通過と苦しんだ日本代表。しかし、AFCアジアカップカタール2023の本当の戦いは決勝トーナメントからだ。 「チームとしてはいい準備できているんで、もちろん負けたら終わりと言うプレッシャーがある中で、やらないといけないですけど、とにかく思い切ってやるだけだと思います」 1月31日のラウンド16・バーレーン代表戦を前にキャプテンの遠藤航は今一度、気を引き締めた。 森保一監督は今大会を戦うに当たり、26人全員を戦力と見なし、試合ごとに可能な限りのメンバーを使おうと試みている。まだ突破が決まっていなかった3戦目のインドネシア代表戦もイラク代表戦から8人もの入替を断行。「5年前(2019年の前回大会)の自分だったらできなかった」というリスク覚悟の采配も振るい、見事に結果を出している。 今回も中2日で準々決勝が控えているため、スタメン選定は難易度が高かったはずだが、いい感触を残したインドネシア戦を主体とした陣容で挑むことを決断。イエローカードを1枚もらっていた遠藤も初戦から4戦連続で先発起用したのである。 万が一、遠藤がバーレーン代表戦で警告を受けると、イラン代表が勝ち上がってくると予想される準々決勝で不在ということになってしまう。本人もそこには細心の注意を払いつつ、ピッチに立ったという。 ●遠藤航が明かすゲームプランとは… 「自分は決勝までやるしかない。ここに来る前、リバプールでも連戦をやっていたので、それは大きなアドバンテージになっている。インテンシティの話で言うと、リバプールで試合をしているのと明らかに違う。余力を残しつつ、イエローに気をつけながら、うまくコントロールしようと思いました」 行くところ抜くところのメリハリをつけることを意識したようだ。序盤から日本代表が押し込んだこともあり、アンカーの遠藤は攻撃の起点となるパス出しや展開の仕事を多く担うことになった。最終ラインからのビルドアップ時にはしばしば顔を出し、パス回しをスムーズにし、ここ一番で勝負のボールを狙った。 もちろんバーレーン代表のカウンター対策も怠らなかった。彼らは最前線の9番、アブドゥル・ユスフがフリーになった11分のビッグチャンスに象徴されるように、時折、鋭い縦への攻撃を見せてきたが、遠藤中心に危ないところで芽を摘んだ。キャプテンはイラク戦からの修正ポイントも確実に実行したという。 「イラク戦はどちらかと言うとちょっと構えてというか、ゴールキックも前から行かずに相手に繋がせてから蹴らせる感じだったんですけど、そうなると分が悪くなるし、自分たちが跳ね返すポイントが後になってしまう。だから今回はゴールキックをハメて蹴らせるという話をみんなでしていた。その方がコンパクトに保ちながら守備できるし、セカンドボールを拾える。そこはゲームプラン通りでした」 ●毎熊晟矢のスーパーミドルをおぜん立てした“読み” 日本代表ペースで試合が進む中、先制点を挙げたのは31分。左サイドの中村敬斗から中盤でパスを受けた遠藤は中央に絞っていた毎熊晟矢に展開。次の瞬間、背番号16は強烈ミドルをお見舞いした。これが左ポストを直撃し、跳ね返りに鋭く反応した堂安律がゴール。つなぎ役・遠藤のいい味が出たシーンでもあったが、遠藤はゴールまでの流れを読んでいたという。 「タケ(久保建英)のポジションをずっと見ていて。左に流れて数的優位を作れていたので、サイドを変えると言うよりは、そこをシンプルに使ってもいいのかなと。相手も左側に寄っていたし、真ん中にスペースがあったので、マイク(毎熊)に出せばミドルが打てるかなと思った」 その後、旗手怜央が負傷するというアクシデントがあり、守田英正が急遽登場することになったが、中盤のバランスが崩れることはなかった。1-0で折り返した後半も日本代表は試合の主導権を渡さなかった。久保が早い時間帯に2点目をゲットし、ほぼ勝負が決まったような雰囲気になった。 そこで相手の戦意を喪失させるような展開に持ち込めなかったのは反省材料だ。リスタートから1失点し、冨安健洋も「2点目が入ってシンプルにボールを失うシーンがかなり増えて相手に流れを渡したんで、僕も含めそこは後ろの責任。課題が残った部分であると思います」と反省しきりだった。 遠藤も「攻守両面において改善すべきことはまだまだある」と指摘したが、彼の中では「結果的に勝てばいい」といういい意味での割り切りが常にある。だからこそ、少々のことでは動じない。この1失点の後も中盤からチームを落ち着かせ、リスク管理を意識しながらプレー。上田綺世の3点目が生まれ、5-4-1のブロックを敷いて守備固めに入った後も堅実なゲームコントロールを心がけていたように見受けられた。 ●敵将に名指しされた遠藤航「6番の重要性」とは… 「リバプールよりゆっくりプレーするところに自分も合わせていかなきゃいけない。そういうところはあるんで、無理せずに動きすぎないことを意識してやりました。要所要所でセカンドボールを拾うとか、ボールを奪った後に時間を作るとか、ちょっとしたことの積み重ねが自分たちのプレーを優位にさせる。結局はそれがチャンスになったり、得点につながったりする。毎試合毎試合、そういうところにトライするだけですね」 遠藤は最後までアジアカップ仕様のやり方で時間を効果的に使い切り、3-1の勝利でゲームを終わらせたのである。 こういった頭脳的なプレーができる選手だからこそ、彼は世界的名将、ユルゲン・クロップ監督から直々にオファーを受けるに至ったのだ。バーレーン代表指揮官、フアン・アントニオ・ピッツィ監督も対戦前に「日本のキーマン? あえて1人挙げるなら遠藤だ」と名指しで評価していた。 それだけ今の日本代表はやはり遠藤抜きには語れないということ。過去の日本であれば、本田圭佑や香川真司などアタッカーが世界的な看板になっていたが、今ではボランチの彼が最もフォーカスされ、実際に試合のプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれている。 「(僕が評価されるのは)分析する側が中盤の底の大切さ理解していることの表れなのかなと。もちろんアタッカーも重要だけど、6番のポジションの重要性をみんなが認識して、サッカーの見方が変わって行けばいいのかなと思いますね」と本人も前向きに語ったが、試合を動かす心臓がフル稼働して初めて5度目のアジア王者が見えてくる。 「中2日、中3日の連戦もドンと来い」というスタンスで、遠藤にはここからさらにギアを上げていってほしいものである。 (取材・文:元川悦子【カタール】)
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