【ニッポンの医療危機】「診療所ゼロ」の自治体が2040年までに4.4倍になる予測 “町のお医者さん”がいなくなる3つの構造的要因
「診療所ゼロ」自治体が増える「3つの要因」
1つめの要因として挙がるのは、人口減少の影響だ。厚労省が2040年までに「診療所ゼロ」自治体になると予想している265市町村について、人口規模で区分してみると、「5千人未満」が109、「5千~1万人未満」が97、「1万~2万人未満」が54だ。「2万人以上」も5である。いずれも小規模自治体である。 (グラフ出所/厚生労働省「新たな地域医療構想等に関する検討会」資料) こうした小規模自治体には、65歳以上人口か減り始めているところが少なくない。日本全体としての65歳以上人口は2043年まで増加する見通しとはいえ、その中心は東京圏などの大都市部である。厚労省によれば2025年から2040年にかけて100万人以上の大都市では17.2%増、地方都市は2.4%増となる一方で、過疎地域は12.2%減る。 「診療所ゼロ」が見込まれる265市町村は、診療所の経営を成り立たせるのに必要な患者数が見込めなくなるということだろう。 2つめの要因は、高齢者の年齢が高くなることによる影響だ。診療所の外来患者の多くが65歳以上だといっても、外出が難しい状態になれば診療所に出掛けること自体が難しくなる。今後は1人暮らしの高齢者が増えることから、なおさらだ。 その境目は85歳である。厚労省によれば訪問診療の受療率は85歳以上になると跳ね上がる。これは外来受診が難しくなった人が訪問受診に切り替えているということだ。 85歳以上が増える超高齢社会になるにつれて外来患者は減る見込みということだ。85歳以上人口は2024年9月15日現在676万人だったが、社人研によれば2040年には約1.5倍の1006万人に膨れ上がる。年々訪問診療の患者数が多くなっていくということである。 65歳以上人口の偏在が、外来患者数(通院)の地域差として反映していることに加えて、85歳以上人口の増加で地域差はより大きくなっている。厚労省によれば大多数の二次医療圏(一般的な入院治療が完結するように設定した区域。通常は複数の市区町村で構成される)では、2020年までに外来患者数はピークを迎えており、2030年以降に患者数が最多となる二次医療圏は三大都市圏を中心とした一部に限られる。このため、厚労省は2025年には日本全体としての外来患者数はピークを迎えると見立てているのだ。 3つめの要因は、地域住民の減少よりも医師が減るペースが速い地域が少なからずあるが、今後「診療所ゼロ」となることが予想される市区町村においては、そもそも人口あたりの医師数が少ない点である。 人口に比して医師が少ない地域においては、しわ寄せで医師1人あたりの負担が大きくなりがちだ。責任感の強い医師が医療提供体制に支障が生じないよう私生活を犠牲にしているケースも珍しくない。ただ、こうした医師の個人的な頑張りには限界がある。激務を敬遠する医師がこうした地域で働くことを避けたり、他の地域に流出しやすくなっていたりすることも現実だ。 診療所経営も他の業種と同じく、立地する際には地域商圏の将来見通しは無視できない。「診療所ゼロ」となりそうな小規模自治体は立地場所としての魅力が乏しく、診療所を開設したり引き継いだりすることをためらわせる懸念点の1 つとなっているのである。