小型機墜落から1か月 “ガラパゴス化”した日本の航空の課題
東京都調布市の民家に小型機が墜落し、住民ら3人が死亡した事故から1か月がたちました。事故機が飛び立った調布飛行場では、自家用機の運航自粛は続けられるものの、測量や写真撮影などを行う事業用航空機の運航は9月1日から再開されることになりました。地元は飛行場の閉鎖を求める声もあるようですが、一方で、大型航空機や軍事航空ではない、こうした小型機などの航空には日本独特の事情があり、さまざまな課題があります。 今回の事故を航空政策や都市計画、防災的な観点からどう見るか。航空ジャーナリストの藤石金彌氏に寄稿してもらいました。
ジェネラル・アビエーションとは
便利な空の旅をもたらすエアラインやマッハで飛ぶ軍事航空のみが航空ではない、というと皆さんは驚かれるかもしれません。航空を目的別に分類すると、一般航空=ジェネラル・アビエーション(ジェネアビ)と、非一般航空=エアラインと軍事航空という分類になります。 言いかえると、航空機による飛行のうち、「定期航空路線(エアライン)と軍事航空」=非一般航空を除くあらゆる航空活動の総称を一般航空(ジェネアビ)といい、目的別に次のような分野に分けられます。 《公共機関》 司法警察・消防・防災機関等の空中パトロール/捜索救難/ドクターヘリ/報道機関の取材活動 《産業航空》 不定期貨物便/ビジネス機/操縦訓練/航空写真撮影・航空観測/遊覧飛行/農業の空中散布(種・肥料・農薬) 《レジャー飛行》 自家用機/グライダー等のスカイスポーツ 実は、航空はこうした幅広い分野にわたっていて、国民の生活の利便向上と安全に関わっています。先の調布飛行場墜落事故は、一般航空(ジェネアビ)の中の「産業航空」分野の操縦技量維持飛行で発生したものです。
取りにくいパイロットのライセンス
いま、日本のジェネアビにはたくさんの課題がありますが、最大の課題は、今回の調布飛行場墜落事故で明らかになりつつある、取りにくい、維持しにくいパイロット・ライセンスの問題です。 パイロット・ライセンス取得と技量維持のシステムと費用については、長い間、国内でのライセンス取得は困難でした。そのため海外での取得が増え、そのことが国内での訓練生を減らし、訓練コストを押し上げる悪循環をもたらしていました。この問題は、まわり回ってエアラインやLCCのパイロット不足にも影を落としています。 いま首都圏では、小規模の飛行場が次々に姿を消して、飛ぶための飛行場が無くなっていくという問題に直面しています。ジェネアビを利用できる飛行場は、調布飛行場ぐらいしかなくなりました。近県でも埼玉と茨城くらいですが、近年、茨城の一か所が閉鎖される状況です。 東京調布飛行場(正式名称)は、旧陸軍が使用していた飛行場でしたが終戦・米軍管理を経て、国の場外離着陸場となりました。伊豆諸島などへの定期便が就航し、1992年に国から東京都に管理運営が引き継がれ、都営コミューター空港になりました。都営化とともに、航空管制官に替わり、都が有視界飛行のための情報提供を行っています。かつては、2本の滑走路を持つれっきとした飛行場でしたが、軍用地削減の風潮や、宅地開発で現在のように規模が縮小されてきました。