やす子も、戦隊俳優も “児童養護施設”出身者が語る子どもたちの現状と今後の課題
悩みながらも活動を続けるブローハンさんを子どものころから知るのは、児童養護施設「聖友学園」の施設長・若松弘樹さんだ。 「彼は施設にいるときから明るく、頼りがいがあるお兄さん的な存在でした。今では広い人脈を持ち、施設と企業を取り持つパイプ的な役割も果たしてくれ、一緒に飲みに行くこともあります」
自立というのは一人で立つことではない
若松さんはブローハンさんの活動に共感し、生きづらさを抱える施設出身者にエールを送る。 「自立というのは一人で立つことではありません。困ったときは適切に誰かに相談できるのが大人です。つらくて悩んでいる人には、聡君のところをはじめ、よりどころがたくさんあることが大事だと思います」(若松さん) ブローハンさんたちと連携している認定NPO法人ブリッジフォースマイルは、施設退所を控えた18歳の高校生を対象に、一人暮らしに必要な知識とスキルを学ぶ場を提供している団体だ。代表の林恵子さんとブローハンさんは同じ方向を向く仲間として、意見交換することも多い。 「これまでは担当の先生によって奨学金や給付金の探し方にも差があり、子どもたちの間で情報格差がありました。今はブリッジフォースマイルの支援が受けられたり、児童養護施設に自立支援コーディネーターが配属されるようになり、情報に偏りがないよう整備されました」 ブローハンさんは2021年に、『虐待の子だった僕 実父養父と母の消えない記憶』(さくら舎)を上梓し、自分の人生を変えた大きな経験をつづっている。 「14歳のとき内戦が続くスーダンで撮影された写真を見てハッとしました。やせ細った少女を狙うようなハゲワシの写真で、この少女と比べて自分にはまだ生きるチャンスがあると強く思ったのです」 今年公開された映画『花束』には、俳優としても出演している。イランの孤児院で育ったサヘル・ローズさんの初監督作品で、児童養護施設で育った若者たちが記憶を紡ぐ内容だ。 「ドキュメンタリーとフィクションが交ざり合い、自分の体験を表現する作品で、初めて俳優を経験しました。多くの人に子どもへの虐待や児童養護施設の課題を知ってもらうためには、福祉の枠を超えた発信が大事だと思っています。支援を限定した枠組みに収めず、人ごとではなく自分ごととして考えてもらうためにも、今回は貴重な機会だと思って出演させていただきました」 コンパスナビのような団体が若者への支援を続けるためには資金も必要だ。 「県から補助金をもらったり、寄付金を集めたりしても成り立たなくなる支援団体が多いのが現状です。ボランティアではないので、安定した事業収益を上げながら、生きづらさを抱える人を包括的にサポートする体制をつくっていくことを考えています」 ブローハン聡さん●ぶろーはん・さとし 1992年、東京にてフィリピン人の母、日本人の父の間に婚外子として生まれる。4歳から11歳まで、母の結婚相手(養父)から虐待を受ける。11歳のときに保護されて児童養護施設へ。14歳のときに母を乳がんで亡くす。施設を出た後は病院の看護助手、携帯ショップなどで働く一方、フリーのモデル・タレントとして活動。現在は埼玉県の一般社団法人コンパスナビの代表理事として、社会的養護出身の若者の居場所・よりどころをつくる活動に携わる。 取材・文/紀和 静 取材協力/NPO法人ひだまり