ウクライナで戦死した台湾人義勇兵の思い㊤ 子供3人の父親、「自由と民主を守りたい」と戦地に
当時、2人が所属する分隊は森林の中に防衛線を構築する任務を行っていた。正確な情報が乏しい中、待ち構えたロシア軍部隊と遭遇し交戦。敵が放った迫撃砲の1発目が潘さんの左約2メートルの位置で爆発し「目の前を破片が飛んでいった」。2発目は数メートル前にいた呉さんを直撃した。
腰に被弾し失血する呉さんを抱えようとしたが、激しい砲撃が続いて味方に負傷者が相次ぎ、撤退を余儀なくされた。いまだに呉さんの遺体は回収できていない。所属部隊では2週間で24人が戦死したという。
■募る怒り「正常な国家が破壊されていく」
3人の子の父親である呉さんはなぜ戦闘に参加したのか。「自由と民主を守りたい、と私に話したことがあった。それに彼はウクライナを第二の故郷として愛していた」と潘さんは振り返る。呉さんは、東部で一般市民がロシア軍の攻撃で殺害されることに憤り、「正常な国家が破壊されていく」と語っていたという。
呉さんは戦乱で飼い主と離散した猫を9匹保護し、自分でエサを買って与えていたという。戦場での経験が浅い同胞の潘さんを常に気にかけており、「父親のような存在。とても善良な人だった」としのんだ。
台湾海軍の陸戦隊(海兵隊)に約4年間在籍した経歴を持つ潘さんだが、もし周囲に義勇兵を志願する人物がいれば「絶対に行かないよう忠告する」と断言した。現在の前線はあまりにも危険だからだ。
早期終戦を掲げるトランプ米次期大統領の来年1月就任を前に、ロシア軍は現在、前線で攻勢をかけている。少しでも交渉を有利に進めるためだ。ウクライナ軍の現状は苦しい。「重火器と砲弾が不足し、空軍戦力もない。突撃任務の戦死率は3割だ。歩兵が敵の自爆型ドローンに発見されれば生き残るすべはない」。(西見由章)