バイオ企業を製薬大手に売却、資産20億ドルのハーバード大教授
ハーバード大学教授のティモシー・スプリンガーは、2020年に個人で出資しているバイオテクノロジー企業モデルナの株価が新型コロナワクチンの開発で急騰したことを受け、ビリオネアとなった。そして今年7月、スプリンガーが2014年に設立したMorphic Holding(モーフィック・ホールディング)が製薬大手イーライリリーに32億ドル(約5050億円)で買収されることが決まった。 イーライリリーは米国時間7月8日、マサチューセッツ州ウォルサムに本拠を置くモーフィック・ホールディングを1株当たり57ドルで買収すると発表した。スプリンガーは、モーフィック株の約16%を保有しており、今年第3四半期に買収が完了すれば、税引き前で約4億3500万ドル(約687億円)を受け取ることになる。 この発表を受け、モーフィックの株価は75%上昇して55.79ドルをつけた。フォーブスは、スプリンガーの保有資産を20億ドル(約3157億円)と推定している。 モーフィックは、細胞が他の細胞と接着したり、情報を伝達する働きをするインテグリンと呼ばれるタンパク質を利用した経口薬を開発している。同社の治療薬は、自己免疫疾患をはじめ、炎症性腸疾患やがんなどの慢性疾患を治癒する可能性がある。イーライリリーは、特に「MORF-057」と呼ばれる低分子阻害剤に関心を示している。MORF-057は、潰瘍性大腸炎とクローン病の治療薬として現在第2相臨床試験が進行中だ。 「炎症性腸疾患の臨床試験は非常に長く、大手製薬会社との提携は常に検討事項だった。しかし、会社を売却する予定はなく、リリーによる買収提案は予想外だった。リリーは、MORF-057のプログラムだけが欲しかったのだ」と、スプリンガーはバイオテクノロジー業界に特化したニュースメディアであるEndpoints Newsに述べている。 現在76歳のスプリンガーは、1976年に分子生物学の博士号を取得し、翌年からハーバード大学で教鞭をとっている。以来、彼は免疫学の分野で画期的な研究を続けてきた。1980年代には、インテグリンとリンパ球機能関連分子を発見し、その研究をもとに1993年にバイオテクノロジー企業のLeukoSiteを設立した。彼は、1998年に同社を上場させると、その1年後にミレニアム・ファーマシューティカルズに6億3500万ドル(約936億円)で売却し、1億ドル(約147億円)相当のミレニアム株を手にした。 ■研究の成果をビジネスに 「私は、研究室での成果を、私自身が立ち上げた会社で再現し、医薬品を開発してきた。このことは、私の科学の厳密さを証明している」と、スプリンガーは2020年にフォーブスに語っていた。