「もう虐待死起こさない」改正児童福祉法成立で東京各区に悲願の児相設置へ
過去の悲劇を繰り返さないために――。高止まり状態の児童虐待死に加え、増加の一途をたどる虐待相談への対策強化を狙った改正児童福祉法が先月末、国会で可決・成立した。かねてから東京23区が要望していた各区への児童相談所(児相)の設置を認めたほか、虐待が疑われる家庭に対して従来は煩雑だった児相による「臨検(立ち入り検査)・捜索」の手続きを簡略化した。23区の現場サイドは「虐待防止という地域の課題に向け、切れ目のない一貫した体制づくりを整えたい」としている。(フリー記者・本間誠也) ◇ 【動画】「親子の暮らし」か「子供の保護」か 対応難しい児童虐待 ――児相に聞く
「23区に児相の設置が認められたことは、私どもだけでなく各区にとって悲願であり、念願でした。虐待死を再び起こさないよう、過去の反省を生かしてマン・パワーの強化を含めた体制の充実を図りたい」。改正法のきっかけの一つとなった2010年1月の児童虐待死事件を念頭に、東京・江戸川区役所の児童女性課長は話した。
都と区の連携不足で対応放置の教訓
この事件の概要を説明すると、09年秋に同区内の男児=当時小学1年=が通院していた歯科医から、「虐待が疑われる事案がある」という通報が区の「子ども家庭支援センター」に。だが区の支援センターと、都の墨田児童相談所(現・江東児相)、男児が通っていた学校などの連携が不十分なまま、実態として対応策が放置された結果、翌10年1月に男児は義父と実母からの暴行で死亡する。 同区は事件を検証し、「支援センターも学校も虐待に対する認識が低く、情報に適切に対処できなかった結果、男児を死に至らしめた。事件は区全体の責任」という内容の報告書をまとめた。都の児相との連携ミス、情報共有の不十分さについても問題視した。 現状では、虐待に関する情報が各区の支援センターに寄せられた場合、センターは子どもの安全を確認し、都の児相や学校と連携を取るほか、保護が必要な事例については権限を持つ都児相に引き継ぐシステムになっている。 ただ、江戸川区の事件に代表されるように、区と都の行政機関の連携については「判断や認識の違いから、子どもの安全を最優先にしたスピード感のある対応が取れていないケースも少なくない」と区長会の場などで指摘され、23区は国に対して児相設置を認めよう求めていた。 改正法の施行は来年4月で、23区は国の支援期間の5年以内の児相設置を目指す。江戸川区の同課長は「改正法によって、虐待が疑われる家庭への対応から児童の保護まで一体化して取り組める。虐待対応ワーカー(相談員)は現在20人以上ですが、さらに積極的に増員を進めて子どもの命を守るための切れ目のない仕組みを整備したい」と語った。