「もう虐待死起こさない」改正児童福祉法成立で東京各区に悲願の児相設置へ
増え続ける虐待相談、15年間で7.6倍に
区と都の連携問題に加え、国が東京23区に児相の設置を認めた背景には増え続ける児童虐待件数がある。 児相は各都道府県と政令指定都市に設置が義務付けられ現在計209施設あるものの、全国の児相が対応した虐待相談件数は14年度は前年度比2割増の8万8931件。児童虐待防止法の施行前の1999年度と比べれば7.6倍に上る。さらに虐待死も毎年度50人以上を数える「高止まり状態」(厚労省)が続いている。 一方、全国の児相で相談対応を担う児童福祉司の数は現在2934人で、1999年度の1230人との比較では2.4倍の伸びにとどまっている。 改正法は対応の迅速化を目指し、虐待が疑われる事案では、児相が裁判所の許可状を得て強制的に家庭に立ち入る臨検・捜索の手続きを簡素化した。こうした際の保護者とのトラブル対策などとして児相に原則、弁護士の配置も原則義務付けた。これまで臨検は、親が任意による立ち入りを認めず、出頭にも応じないケースなどに限られていたが、手続きの煩雑さから毎年の実施事例は全国でも数件程度。施行後の来春以降は、臨検の条件から出頭要求が除外される。 「虐待問題に精通した弁護士の力を借りるすることで、(立ち入りできずに)安否不明のまま子どもが死亡していたという過去の事例を根絶できれば」。児相の現場ではこうした期待を寄せる声も高まっているという。
「児相の対応力は限界」専門職員の配置を
児童虐待問題をめぐっては、虐待児の安全確認や保護はもちろん、「その後」の居場所づくりも課題の一つだ。国は改正法の目玉の一つとして、受け皿となる里親制度の拡充を打ち出した。 「家庭で養育が難しい子どもは家庭と同様の環境で養育できるよう国と自治体が対応できる」「里親の開拓や支援を児相の業務とする」「里親を法定化して養子縁組に関する相談・支援を児相の業務とする」といった方針を明確に示した。 虐待を含む家庭での養育が難しい子どもの受け入れ先として、国は将来的に里親やファミリーホームの割合を3分の1以上にしたい考えだが、現状は16.5%に過ぎず、約83%が児童養護施設で暮らす。 全国で里親に登録しているのは15年3月末現在、9949世帯。このうち子どもを養育しているのは3644世帯で、「里親が希望する年齢、性別などとマッチングがうまくいかないケースも実態として少なくない」(厚労省)とされる。 ただ、虐待相談が20年以上にわたり増加し続ける一方、里親制度の推進などの業務も重視される中、児相の負担を懸念する声は強い。 「児童相談所の対応は限界にきており、機能強化が最優先」――。 国は4月下旬、19年度までに児童福祉司を現在より550人増やすプランを提示したものの、改正法のたたき台となった「新たな子ども家庭福祉のあり方に関する専門委員会報告(提言)」は児相の現状をそう指摘した上で、強調する。 「この報告(提言)の成否は職員配置の充実と専門性の向上にかかっている」「高度な専門性を持った職員の十分な配置が不可欠だ」と。