2025年、全都道府県で「最低賃金1000円」達成せよ 中小企業の「支払い能力」は過去最高を記録中
さらに、大企業の利益だけが伸びているわけではありません。中小企業の経常利益も1.6倍になっています。大企業の営業利益の1.8倍とあまり変わりません。 中小企業の内部留保も、1990年度の51.2兆円から2022年度の188.5兆円まで増えており、もはやGDPに対して3割を超える水準に達しています。中小企業には最低賃金を引き上げても支払う余裕があります。 結果、大企業も中堅企業も小規模事業者も、どの規模の企業も利益は史上最高水準となっています。
■「大量の倒産! 大量の失業者!」というデマ ただの主張ではなく、エビデンスで確認しましょう。2012年以降、最低賃金は1.34倍になり、加重平均で749円から1004円へと、255円も上がっています。 その間、法人企業統計のデータによると、企業数は20.1万社増加しました。これは7.4%の増加です。雇用は221万人増加し、5.4%の増加です。史上最高の雇用者数となっています。 そもそも、モノプソニーの概念に基づいて適切に最低賃金を引き上げると、雇用は減るどころか増えるとされています(参考記事:日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける)。
そもそも、これほどの人手不足の中、時給1000円も払わない企業で働く必要はありませんし、時給1000円も支払えない企業を存続させるために、労働者が犠牲になる必要もありません。 ■年収の壁を廃止せよ 最低賃金の引き上げによって雇用は減りませんが、労働供給量が減ることはあります。それは年収の壁の悪影響によるものです(参考記事:日本の選択「年収の壁の廃止」か「移民に参政権」か)。 高齢者の数が減らないのに、生産年齢人口が激減することで、労働者1人当たりの社会保障負担が増えています。その負担に耐えるには、一人でも多くの日本人がフルに働き、フルに稼ぐ必要があります。
しかし、年収の壁によって、優秀な女性は最低賃金が上がった分だけ、控除を継続するために労働力の供給を減らします。年収の壁は、明らかに経済合理性がなく、経済活動に歪みをもたらしています。家庭の年収も減少させています。 政府は、年収の壁を引き上げるのではなく、稼ぐだけ稼いでもらうために、多くの先進国同様に、年収の壁を廃止するべきです。今の税優遇は維持したうえで、「平成何年生まれ以降」と年齢を区切りつつ、第3号被保険者制度も廃止するべきです。
日本経済は、人口減少に伴い、消費者の数が減少しています。このままでは経済の規模そのものが縮小します。それを防ぐためには、若者を中心に現役世代の年収を増やすしかありません。 政府は年収の壁を廃止し、継続的に最低賃金を引き上げるべきです。
デービッド・アトキンソン :小西美術工藝社社長