THE FIRST TAKEから東京五輪の動くピクトグラムまで。1秒の画づくりにこだわる映像クリエイターたちの愛用時計
背伸びを悟られたら負け、漢気で選んだ腕時計
「この一本とは偶然出合いました。100万円を超える時計を購入するのは初めてで、ためらいながらも思い切って買いましたね」 雑誌や広告、YouTubeの『THE FIRST TAKE』など、さまざまなメディアで活躍するフォトグラファー、長山一樹。スーツにハット姿のスタイルにもこだわりを持つ彼がパテック フィリップの「カラトラバ 3919」を購入したのは2016年。セレクトショップのヴィンテージウォッチコーナーだった。 「スーツで撮影するスタイルがやっと馴染んできた頃でした。時計は袖にかからない薄さが大事。時計を着ける左手は、右手と袖口のサイズを変えるくらいオーダーでシャツも調整していましたし」 腕時計を手首に載せるとサイズはぴったり。そして自然と気が引き締まったと振り返る。 「スーツを着ることもそうですが、若い自分なりに頑張って買ったところもありました。でも、気負いがバレたら負け。男としての成長をゲーム感覚で楽しむ、そんな遊びのひとつがこの時計でしたね」 PATEK PHILIPPE / パテック フィリップ「カラトラバ 3919」
遊び心のある仕掛けで、気分をコントロール
2021年の東京オリンピック・パラリンピック開会式で大会史上初の「動くピクトグラム」を制作した映像デザイナーの井口皓太。本番半年前から緊張を強いられていたという。そんな大仕事をやり遂げた記念に購入したのが、ルイ・エラール×アラン・シルベスタインの腕時計。スペシャルボックスに入った3本セットだが、そのうちデイト表示があるモデルが大のお気に入りだという。当時「自分が気に入った時計が見つかるまでは腕時計を着けない」と決めていた井口にとって、絶好のタイミングで出会えた初めての腕時計だった。 「仕事では幾何図形を動かすことが多いので、腕時計も図形的なものやグラフィックデザインの延長で時間を表現したものを探していた時にこの時計を見つけました。アラン・シルべスタインは僕が大学の時に勉強していたバウハウスの理念をもとにデザインを行っているところも魅力だなと」 特徴的な針はもちろん、丸みを帯びた四角形に円柱が美しくはまっているケースデザインなどに惚れ込んだ。特に「スマイルデイズ」と呼ばれるユニークな曜日表示が気に入っているポイント。 「顔のイラストの表情で曜日を表現していて、月曜日はガッカリした顔で週末に近づくに連れ毎日少しずつ笑顔になっていくんです。プレゼンなど緊張する場面では笑顔にしたり、冷静になりたいと思ったら、キリっとした顔を選んだり。その時の気分や自分のモードに合わせて、チューニングできるところも好きですね」 デザイン性に優れ遊び心のある一本はこれからも彼のクリエイティブを支えてくれることだろう。 LOUIS ERARD × ALAIN SILBERSTEIN / ルイ・エラール × アラン・シルべスタイン「チャプター2」
写真:池田佳史、舛田豊明、丸益功紀(BOIL) 文:青山 鼓、石川博也