情報爆発の時代、図書館はどこへ…シンガポール、デジタル化とAIで革新 たった1分で物語を生成したり、3Dプリンターを使えたり
世界最大級の米図書館アプリ「リビー」とも連携。リビーではオーディオブックを含め計約170万冊の電子書籍や、世界各国の2千以上の雑誌電子版を、バックナンバーを含め借りられる。国民であれば、海外からも利用でき「在外留学生にも好評だ」(関係者)。 日本の電子出版制作・流通協議会(東京)によると、日本の自治体の公共図書館の電子書籍サービス導入率は29・9%(今年1月時点)。人口と国土が小さいシンガポールはもちろん、電子書籍サービスを9割導入済みの米国の公共図書館より、大きく後れを取っている。 日本の場合、国立の事実上の中央図書館として機能している国立国会図書館は国会の所管だ。一方で公共図書館は文部科学省の所管となる。国会図書館も公共図書館を支援するが、直接的な指示系統はなく制度的な限界がある。 協議会の長谷川智信氏は「多くの人が紙媒体ではなくインターネットで情報に触れる。ただネット上には信頼できる情報が少ない。図書館の電子書籍サービスの導入で、ネットで信頼性の高い情報へのアクセスが向上し、デジタル時代にふさわしいリテラシーを身につけることができる」と図書館デジタル化の利点を指摘する。 ▽学ぶ場として進化
デジタル化が進めば、「場」として図書館の意味合いも変わる。日本を含め、世界各国では図書館の利用者数が減少傾向だが、シンガポールでは図書館への訪問者数増加に向け布石を打つ。 昨年開館したシンガポール北東部プンゴルの地域図書館には3Dプリンターなど最新の工作機械を利用できる施設がある。起業家や個人事業主を支援するため専門家への相談が無料で、経営講座も開催。個人契約では高価な内外の約70の市場調査会社のデータを使える。 図書館局のジェネ・タン首席司書兼最高革新責任者は起業家に限らず「コンテンツ選びや体験講座、相談サービスを通じて、利用者の学びを支援したい。誰もが学習できる、親しみやすい空間を提供する」と強調する。 図書館へ呼び込む仕掛けも島内に張り巡らす。シンガポール各地のショッピングモールや駅などに「ノード」と呼ばれる小さなスペースの臨時の無人図書館や、QRコードで電子書籍を借りられるポスターを期間限定で設置し、図書館との接点を増やしている。タン氏は「デジタル化は読書や学習の在り方を変える。体験をより豊かにするために、図書館も変化しなければならない」と指摘した。
日本でも地域によっては図書館を地域活性化の核として据える自治体が増えている。駿河台大の青野正太助教(図書館情報学)は、情報があふれる時代に確度が高い情報に触れられる図書館の役割は重要性を増すとした上で「新たな取り組みについて、公共図書館同士の情報共有が重要になる。地域の実情や住民のニーズに沿った情報発信や図書館の在り方を模索しなければならない」と話した。