情報爆発の時代、図書館はどこへ…シンガポール、デジタル化とAIで革新 たった1分で物語を生成したり、3Dプリンターを使えたり
情報が爆発的に増える時代、図書館はどうなるのだろうか。シンガポールがデジタル化と生成人工知能(AI)を通じ、図書館の革新に取り組んでいる。 【写真】香港の独立系書店、「中国化」圧力で閉店も 言論の自由はさらに後退し…
人口が少なく、資源に乏しいシンガポールは人材育成を重視し、経済成長につなげてきた。図書館を身近にして読書体験を後押しし、デジタル時代に応じた国民の能力や可能性の底上げを狙う。(共同通信シンガポール支局=角田隆一) ▽物語創造 「すごい」。暗がりの中、物語AI体験室で子どもたちの興奮した声が聞こえる。音楽とともに、壁一面の巨大パネルにタイトル、物語の「起承転結」をそれぞれ示した計5枚の絵本風の静止画像が浮かび上がる。画面の下には英語で物語の筋が書かれている。物語も画像も生成AIが作り出した。宇宙船にいる犬が主役のようだ。 2024年3月中旬、英語塾講師のアニタさん(40)は子ども2人とシンガポール中心部の中央図書館を初めて訪れた。「英語の語彙が子ども用によく選ばれている。(発行される)QRコードで家でも見ることができるのがいい」。この日、2人の子どもは6回以上物語を生成した。 国立図書館局は1月、シンガポール中心部の地域図書館に物語生成AIの体験室を公開した。まず専用タッチパネルで、赤ずきん、地元の民話など六つの物語から大まかな話の型を選ぶ。さらにアクションやファンタジー、コメディーなどジャンルを選択し、宇宙や都市といった舞台に加え、性別や世代、動物など主役の特徴のほか、大団円か悲劇的かなど結末のパターンを選ぶ。これを基に生成AIが新たな物語を編集。1分ほどすると、物語が画面に映し出される。
開発を支援した米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のエルシー・タン氏は「読書と創造する楽しさを知ってもらう」きっかけになってほしいと語る。図書館局では、通話アプリWhatsApp(ワッツアップ)などを通じて対話型AIと本の内容をやりとりできるといった複数のAI関連サービスを開発中だ。 ▽図書館の新たな道 シンガポールはデジタル時代に図書館の在り方を刷新する5カ年計画「LAB25」を2021年に公表した。背景について、今年1月のイベントでテオ情報通信相は「巨大IT企業が世界を制し、コンテンツが増え続ける中、図書館は学び、つながる新たな道を見つける必要がある」と説明した。 デジタル化は読者の利便性向上と効率運営に欠かせない。図書館局傘下の28の地域図書館では会員登録も貸し出しも、スマートフォン用の図書館アプリで完結する。アプリで地元紙の閲覧や学習室の席の予約も可能。イベントの告知、貸し出し履歴によるおすすめの本も示してくれる。