旧ジャニーズ性加害:新会社STARTOは「鎖国」に逆戻り、紅白出場なしもテレビ局は元通り?
STARTOへの忖度を早くも再開?
民放で1年以上起用を停止していたのは、10月3日まで解禁しなかったテレ東のみだった。これは親会社が日本経済新聞なので、日経が付き合いの深い財界に気兼ねしたという見方が強い。財界では、特に経済同友会(代表幹事・新浪剛史サントリーホールディングス社長)が、この問題に厳しかった。 そのテレ東もSTARTOへの忖度(そんたく)を早くも再開したようだ。性加害を特集したNスペの取材に応じたOBに対し、番組放送後に同局広報幹部が「今後、元テレビ東京社員という肩書を使わないでほしい」「在職中のことは話さないでほしい」と要請したというのだ。 そのOBは桜美林大学教授の田淵俊彦氏。同氏のブログや「プレジデント・オンライン」への寄稿によると、テレ東幹部はNスぺ放送後、視聴者から同局へ寄せられた多くの電話対応で制作現場が動揺しているので、OBとしての発言を控えるように求めてきたという。 しかし、田淵氏が番組で話した内容はジャニー氏の人柄や旧ジャニーズの体質で、公共性も公益性もあった。 「テレビマンは芸能プロダクションのことを話しにくい。テレビ業界全体にそういう雰囲気が長年にわたってあります」(筆者の取材に対し、田淵氏) ジャーナリストでもある田淵氏はあえて火中の栗を拾い、証言した。こうした発言を封じていたら、テレビ界と芸能界の関係はブラックボックスに入ったままになってしまう。 一方、Nスペを放送したNHKを褒められるかといえば、必ずしもそうではない。同局は民放と異なり高い公共性を求められ、ニュース、ドキュメンタリーの報道系と芸能、エンタメの制作系が事実上、分離されているため、報道側が制作するNスぺは芸能界の暗部に斬り込むことができた。ただ、番組は24年4月の段階で9月の放送が内定していた(実際の放送は10月)。NHKはその放送をみそぎのようにして、補償の進展などとは関係なく、毎年視聴率が注目される紅白に向けて秋にはSTARTO勢の起用を再開するつもりだったのではないかと、筆者には感じられる。 STARTOのタレントを出演させれば、視聴率は取れる。しかし、テレビ局がそこにばかり目を向けて、性加害を巡る自らの姿勢への十分な反省なしに旧ジャニーズ勢と元通りの関係に戻ってしまうのであれば、問題の真の解決には至らず、芸能界やテレビ業界での第2、第3の不祥事は避けられない。
【Profile】
高堀 冬彦 放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。