「終りに見た街」大泉洋インタビュー「戦争の悲惨さをリアルに感じて」
脚本家、小説家として一時代を築き、ホームドラマの名手として人間模様を丁寧に紡ぐ山田太一氏の作品の中でも異彩を放つ「終りに見た街」。1982(昭和57)年放送時には細川俊之が、2005年(平成17)年放送時には中井貴一が主演を務め、それぞれの時代に生きる主人公とその家族たちが1944(昭和19)年にタイムスリップし、戦時下を生き抜く姿を描いてきた。 テレビ朝日系で9月21日(土)に放送の3作目となるテレビ朝日開局65周年記念 ドラマプレミアム「終りに見た街」は、脚本を宮藤官九郎が執筆し、2024(令和6)年に東京郊外で何不自由なくありふれた生活を送るテレビ脚本家・田宮太一の一家を描く。今作で太一役を演じる大泉洋さんに、撮影を経ての思いや見どころなどを聞いた。
――この作品のオファーを受けた際の心境は? 「脚本の宮藤さんとは『こんにちは、母さん』(2023年)という映画で役者として共演し、その後すぐにこのドラマのオファーをいただいたのですが、『いつか宮藤さんが脚本を手掛けるドラマに出たい』という思いがあったので単純にうれしかったです。しかも、山田さんの原作を宮藤さんが脚本にするという、天才同士のコラボ作品ということで、宮藤さんが戦争という重たいテーマをどのように描くのかがとても楽しみでした」
――これまで二度ドラマ化されてきた本作ですが、今この作品をやる意味をどのように感じていますか? 「1作目では昭和57年から約40年前に、2作目は平成17年から約60年前に、そして3作目となる今回は令和6年から約80年前に…と、それぞれ戦争に対する思いや考え方が違う人たちが昭和19年にタイムスリップし、戦争に翻弄(ほんろう)される姿が描かれます。なので、時代が変わるごとに届ける意味のあるドラマだなと。どの時代においても、よりリアルに戦争について考えることができる作品だと思います」
――そんな本作において、主人公・太一を演じられていかがでしたか? 「今回はタイムスリップした後の展開にも現代のテイストが多く盛り込まれているのですが、それは夫婦関係もそうで、妻・ひかり(吉田羊)に頭の上がらない太一が彼女に“多くの人を救おうじゃないか”と提案し、理解を得られた時に喜ぶ姿なんかは既視感があってかわいいなと思いましたね(笑)。ただ、子どもたちが次第に戦争に感化されていく姿というのはすごく怖くてゾッとして…。でも、選択肢が多すぎる現代で、人々の流れに沿って“国のために戦うんだ、悪いものをやっつけるんだ”と歩む方が生きやすい子がいる、というのも分かる気がするんです。演じながらも、いろいろなことを考えさせられた作品でした」 ――確かに、今の日本で戦争が起こった時に子どもたちはどう動くのか…ということを考えるきっかけにもなると思いました。 「今の時代は選択肢が無限に広がっていて、誰にでも何でもできるじゃないですか。でも、それと同時に成功するかしないかは自分次第だと突き付けられ、何かうまくいかなかったときには自分の人生を恨んでしまう。これだけネットに情報が氾濫していたら、逆に何をしたらいいのか分からなくなってしまいますよね。そんな中、戦時中は全く選択肢がなく、いろいろなことをしたいと思う人の方が生きにくい時代。“国のために戦う”という決まりに順応できた人の方がうまくやっていけるわけで、“そっちの方が生きやすい”と思う若者が出てくるっていうのは、今回一つ気付きを得ることができました」