大阪・関西万博の目玉は「ライフサイエンスの新技術」 松井一郎・元大阪府知事は「日本にとって一番必要な技術・産業。これに勝る経済効果はない」と自信を見せる
費用の増大、工期の遅れなど様々な問題が取り沙汰された大阪・関西万博。4月にいよいよ開幕するが、「投資以上の経済効果を生む」と語るのは万博を招致した松井一郎・元大阪府知事と経済学者の高橋洋一氏だ。批判もうずまくなか、あえて賛成派の意見に耳を傾けよう。 【写真】流線的フォルムが特徴 大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン
ターゲットは「命」
松井:1970年万博の時、僕は小学1年生やったけど、すごい衝撃、興奮を覚えた。電気自動車が初めて走ったのはあの時の万博会場。線のつながっていないワイヤレスホンという携帯電話で会話ができたのも驚き。日本で初めてファストフードのケンタッキーフライドチキンも出店した。あれから55年経って、それらは今の社会では当たり前のシステムになっている。 高橋:当時私は行けなかったけど、今回の万博にもそういうものが出る? 松井:ありますよ。日本のものづくりの新しい柱をつくることになる。どの分野がターゲットかというと、「命」。長寿命化のなかで人が生涯自立して満足のいく生活が送れる。ライフサイエンス分野の新しい技術を生み出していけば、世界中から求められる商品になる。 高橋:私は今はリタイア状態なので、火曜から金曜はずっと妻と旅行。だから万博に期待して通期パスを買ったけど、そういう内容ならとても関心が湧く。 松井:iPS細胞で治療しているドクターと話をすると、「心臓だけ動かせばいいなら、いくらでも動かせる」と言う。でも、ベッドに寝たままでは生活の質は上がらない。ある程度自立できるように、体をどう機能させていくかが再生医療の一番のポイントらしいんです。 今はまだiPS細胞で治療するには3000万円くらいかかるけど、大量培養すれば100万円とかに下がるんじゃないかな。大阪では万博で「命」というテーマに向き合いながら、健康で過ごせる医療や研究にパッケージで取り組み、動き始めています。
中小企業にとっては販路拡大のチャンス
高橋:長く働いて、ピンピンコロリですか。いいですね。万博ではどんな展示が出てくるの? 松井:各国のパビリオンの中身の詳細は、これから徐々に明らかになります。それに大阪館には中小企業のブースが400社くらい出る。大阪は企業の99%が中小企業で、技術を持っている。そのなかには、年を取って視力が落ちてくると、メガネが勝手にピントを合わせてくれるというものもある。中小企業にとっては販路拡大のチャンスになります。まあ、どんな展示が出てくるかは来てのお楽しみ。僕が子どもの頃に1970年万博で衝撃を受けたみたいに、若い世代にも面白がってもらえると思います。 高橋:引っぱるね。さすが商売人(笑)。 松井:「今さら万博か」とか、「費用がかかりすぎる」とか、批判はあるけど、日本にとって一番必要な技術、産業はライフサイエンス分野でしょう。健康寿命が長くなればそれだけ仕事ができるから、人手不足解消にもつながるし、医療費も抑えられる。これに勝る経済効果がありますか。 ■もっと読む:大阪・関西万博は“新しい公共事業”か 松井一郎氏「“観光のハブ”大阪の起爆剤になる」、“経済効果2.9兆円超”の試算は「精度が高い」と経済学者・高橋洋一氏 【プロフィール】 松井一郎(まつい・いちろう)/1964年、大阪府生まれ。元大阪府知事。福岡工業大学卒業後、株式会社きんでん勤務。2003年に大阪府議会議員、2011年に大阪府知事、2019年より大阪市長を務める。大阪維新の会代表、日本維新の会代表ほかを歴任し、2023年4月に政治家を引退。 高橋洋一(たかはし・よういち)/1955年、東京都生まれ。経済学者。嘉悦大学経営経済学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。1980年大蔵省(現・財務省)に入省、小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008年に退官し、『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞を受賞した。YouTube「高橋洋一チャンネル」で注目を集め、チャンネル登録者数は120万人を超える。 ※週刊ポスト2025年1月17・24日号